バリスタ・チャンピオン主催の世界同時カッピングに参加!(1)
今回から数回は少しカップ・オブ・エクセレンスのお話を休み、私が経験した最近の中米コーヒーシーンの見聞を紹介します。今回は先ず、先日開催された世界同時カッピングイベントへの参加について綴ります。
バリスタ・チャンピオンのギネス記録更新と言う野望
今回の世界同時カッピングの主催者は2007年のワールド・バリスタ・チャンピオン、また「World Atlas of Coffee」と言うコーヒーの代表的な本の著者として有名な英国人ジェームズ・ホフマンです。イギリスにSquare Mile Cofee Roastersの名の焙煎屋を持つホフマン氏はとてもポピュラーなユーチューブのビデオチャンネルを持ち、十万人以上ものサブスクライバーを誇っています。
今回ホフマン氏が世界同時カッピングを企画したのは現存のギネスにある、1,559人による同時カッピングと言う今年6月に実施されたコロンビアの記録を塗り替えるのが一つの目的だったそうです。
これはインターネットを駆使した世界同時カッピングという画期的な手法で行われるものでしたが、記録を塗り替えられるか否かに関わらず、ホフマン氏にはやったら面白いだろうとの遊び心もあるそうです。そこから言う大胆なイベントを実施するところは正に大物です。
カッピングのパッケージは世界中の3,500人に送付
カッピングが実施されたのは9月21日でしたが、そのたったの一ヶ月ほど前にイベントが発表され、参加希望者がインターネットで募集されました。ホフマン・チームによると彼らの予測をも超える3,500人ものパッケージが申請そして送付され、カッピングの当日までに全てではないものの多くは申請者に届いたとの事なので、とても多くの人々が参加するイベントとなりました。
カッピングの対象となったのはホフマン氏が焙煎する豆のうち5つのコーヒーですが、夫々のコーヒーが30グラムなので合計150グラムのパッケージが世界に送られました。またそれと共に水に混ぜるミネラルまでもが含まれていましたが、これはカッピングにおける水の中心的な存在を考慮してのもので、世界どこの水が使われてもなるべく同じ風味にする手段です。
もう一つ配慮された点は参加者の便宜ですが、ホフマン氏は今回のカッピング参加のコストを抑えるためにパッケージの価格を6英ポンドと言う低価格に抑え、また輸送料も最小限にするために軽量化も計ったそうです。
エルサルバドル・チームは人権分野で活動のジャーナリストのお陰で参加
この様に細心の配慮がされたカッピングですが、一参加者として一方ではホフマン氏のイギリスから数千キロ離れた中米エルサルバドルからは、ニコラス・ロドリゲスが今回の世界同時カッピングへの参加資格ー言い換えれば参加のための材料=5つのコーヒー豆ーを得ました。
ニコラスは人権分野で活躍する同国籍のジャーナリストで、話題の多くは人権に関すると言う意味ではホフマン氏とは異なるもののやはりユーチューブのビデオ・チャンネルを持ち、時にはコーヒーの話も扱い、過去にコーヒーショップ経営の経験もある方です。正にスペシャルティーコーヒーの超愛飲家と言える方だと思います。
そのニコラスにとって今回の世界同時カッピングに抱く関心は、この様なイベントを放送し多くのエルサルバドル人に見てもらい、コーヒーに対する興味を持ってもらいたいと言うものです。それによって国産コーヒーの需要をあげて産業育成を促進する事が狙いであり、愛国心旺盛な見習うべき姿勢を持った方だと思います。
その狙いを持ったニコラスは参加資格を得るとエルサルバドルコーヒー審議会に共同でエルサルバドル・チームのカッピングを放送する提案をし、その熱意に対してついには審議会が承諾したものです。こうしてエルサルバドル・チームのカッピングは審議会のコーヒー・スクールにて行われ、そこからセッションの模様が放送される事になりました。
そのエルサルバドル・チームの構成メンバーはと言いますとニコラスを筆頭として、審議会品質課長のエルネスト・ベラスケス、審議会コーヒー・スクール長のマヌエル・ビンデル、また同スクールのマリオ・エスコバルですが、そのメンバーに加えて友人でもあるエルネストの好意により私も参加させて頂くことになりました。
次回はカッピングのパッケージを受け取る為のロジスティックス面でのニコラスの努力とイベント実施の模様をお届けします。
スペシャルティーコーヒーの品評会、カップ・オブ・エクセレンス(6)
COEイントロ最終回の今回は更なる公益のためにCOEがクリアしていくべき試練について語ります。
これからも取り組んでいくべきCOEの試練
この様に20年の歴史を通して多くの利点を生み出しているCOEですが無論の如く全てがバラ色ではなく、スペシャルティーコーヒー産業発展のためにまだペンディングとなっている課題があります。その中で特筆すべきはやはりCOE外で売買されるスペシャルティーコーヒー豆の価格向上でしょう。
言い換えればCOEの入札では高値で売られるが、その場外ではあまり高い値段で売れないと言う事です。この理由の一つとして良く挙げられるのは、農家のマーケティング力の脆弱性です。これについては、そうと言えば確かにその通りではあります。
但し多くのコーヒー農家の事情を考慮すると、この様に簡単には片付けられなくなります。と言うのも農家の多くは小・零細農家であり残念ながら資源豊富な身であるとは言えず、学歴も良くて読み書きができる程しか無い方達です。
その様なバックグラウンドの人々に自分のコーヒーを巧みに売る責任を押し付けるのは人道的では無いので、この論理には一理あるものの、重要な欠陥を伴っているために有効な根拠とは言い難いと思います。
アラビカコーヒー国際価格と言う宿敵
よって、COE入札外の比較的低い価格と言う問題の根本は、やはり一般市場で売買される大半のスペシャルティーコーヒー豆の価格がニューヨークのアラビカコーヒー国際価格に連動されている為だと思います。何故これが問題となるかは、アラビカコーヒーの世界貿易のうちスペシャルティーコーヒーは凡そ一割ほどにしか達しく、9割はレギュラーコーヒーであることです。
この事がなぜ肝心なのかと言いますと、値段はやはり量が多いものの需給状況によって定められるので、この場合はより質が低いが量がスペシャルティーコーヒーの9倍もあるレギュラーコーヒーの生産状況によって決まってしまうということです。
ここで需要はほぼ安定して上がっているために、国際価格設定は凡そ供給側の推移によるものとなります。その供給は近年は需要以上に上がっており、結果として価格下落をもたらします。
この結果として多くのスペシャルティーコーヒーCOE入札外ではあまり高く売れないと言うことになります。確かにレギュラーコーヒーの値段以上ではあるものの、それはレギュラーの質が比較して低いから当然なのですが、値段の違いが価格相応でない事が指摘されます。
改善の鍵は味わいを吟味出来る我々にある
スペシャルティーコーヒーにはレギュラーコーヒーと比べ物にならない味の深さがあり、それが大きな質の違いとなり、このような素晴らしいコーヒーを飲んで味わいを吟味できる我々にとっては、普通のコーヒーは与えてくれない至福の時をもたらしてくれます。言うまでもなく、こう言った経験をさせてくれるものには多大な価値があります。
この様な幸せを満喫出来る我々スペシャルティーコーヒー愛飲家はその見返りとして、その価値を頭で良く理解し農家へのフェアな対価の支払いを惜しまず、大いに心で有り難みを感じる大切な任務があると思います。
COEについては後日また続けますが、その際にはこのブログで世界デビューする、COEの歴代大会記録の分析を下にしたスペシャルティーコーヒーの過去の歩みとこれからの行き先について語ります。
スペシャルティーコーヒーの品評会、カップ・オブ・エクセレンス(5)
COEイントロの最終回に近づきました。今回はCOEがもたらす利益をもう少し深く探ります。
資本投資を可能にするCOE
COEの有益効果として、農家がよりその生産努力に見合った対価が支払われる様になってきた事を論じました。ではより収入が増えた農家はその資金をどの様に使っているのでしょうか?
その一部は次の年以降も更に美味しいコーヒーがより多く採れるよう、老いた木の植え替え、作付け面積の増大、精製所の修理などに充てます。これは当然ながら良いコーヒーの生産とそれに対する高い対価がその年だけに終わらないようにするには必要な投資となります。
この様に既にある資源や機材などの生産インフラへの投資は既に達している品質のコーヒーを生産し続けるには必要不可欠ですが、スペシャルティーコーヒーは競争が激しい世界なので農家としては以前より更に高い品質の豆の生産を心がけなければいけません。
イノベーションの促進もCOEの賜物
そうするにはすでにある優良栽培、精製技術の採用と言う可能性もありますが、失敗のリスクを心得ながらも敢えて新たな技術を試すやり方もあります。前年のCOEでの高い落札額がこの様な農家のトライを可能にするのですが、こうしたいわゆる試行錯誤の全てではなくとも幾つかが好結果を生み、再びCOE入賞し高い落札額を得る事が可能になります。
こうなると、高品質の豆による高い落札額が次の年以降のイノベーション的な投資を可能にし、その様な投資が更に品質向上をもたらした結果としてまたCOE入賞及び高落札額を来すと言う、これまた前回紹介したものとは違うが並行した形の好循環の誕生となります。
この様にイノベーションの下に技術革新が起きると時とともに少しづつその技術は他の農家にも広がり、産業全体の生産性や品質向上能力の底上げに繋がります。こうして後に広範囲のプレーヤーにとって利益となる可能性を持ったイノベーションを生む者に高い落札額が与えられるというインセンティブによって、そう言った試みを促進するCOEは正にスペシャルティーコーヒー産業発展の要的な役割を果たしています。
最低限の生活基準確保にも寄与
より高額な落札額の、農家にとってもう一つ重要な用途がありますが、これは農園の労働者やその家族の保健衛生、教育を始めとする生活改善のための投資です。これはよりビジネス寄りの人的資源の観点から見ても重要な事項ですが、社会福祉的にも重点を置くべきものです。
大きな農園では労働者の人権尊守の一環としてこう言った分野で援助を行っているものもあり、零細・小農家にとっても人間として必要最低限の生活をするためにCOE入札及び落札などがもたらす高収入は文字通り人生を左右します。
この最後の点に関してですが、最近北中米のメディアでよく取り上げられているニュースとして、コーヒーの国際価格低迷のために中米からアメリカへ不法移民として渡るコーヒー農家やその労働者が近年特に増えている事が思い出されます。この様に不法でも移住を試みるのは農家にとってのコーヒー販売価格が低すぎ、その収入減に伴って十分な生活レベルが確保出来なくなるからです。
こうしてCOE入賞によって高値でコーヒーを売れると言うことは、農家にとっては自国で生活をしていくための保障と希望を与えてくれるものです。
次回はいよいよCOEイントロの締めをします!
スペシャルティーコーヒーの品評会、カップ・オブ・エクセレンス(4)
今回もまたCOEイントロを続けます。長期にわたる落札価格上昇のトレンド、農家の重要な役割、またこの大会がもたらす利益についてもう少し詳しく綴ります。
COE落札価格は時を経て徐々に上昇
前回はCOEで入賞した豆がどれだけの高価格で落札しているかを紹介しました。この落札価格は20年前にCOEが開催され始めてからそういう高いレベルであったのではなく、大会が開催される毎に徐々に上がってきたものです。
では具体的にどの様に上がってきたかと言うとCOE平均落札価格は2001年に中米で初めて開催されたグアテマラCOEでの一ポンドあたり4.56米ドルから、2019年の18.43米ドルへと約4倍に増えています。これは明らかに自然な価格上昇率ではなくCOEの功績と言えるものでしょう。
COEは農家の日々の改善努力を出す
ここでもう少し付け加えるとこのCOE落札価格上昇の筆頭的貢献者として挙げられるのは、それぞれのベストの豆を出品する農家です。当然ながらイベントの創始者、また毎年COE開催を可能にしている優良コーヒー同盟(ACE)や各国の機関も当然ながら重要な立役者ではあります。
でもやはり農家の日々の努力があって初めて美味しいコーヒーが存在し得るもので、農家なくしては幸せのひと時をもたらしてくれるあのマジカルなコーヒーと言う飲み物はあり得ないのです。そう言う大きな存在でもあるにも関わらず農家の貢献度は忘れられがちなので、常に有難みを含み念頭に置くべきプレイヤーだと思います。
他方、農家が幾ら努力しても買い手の欲する豆を的確に把握出来なかったら上述の様な落札価格上昇は起こり得ないと思います。そういう意味では農家がどれだけ買い手の欲するところを掴める様になってきたか、また買い手側もどれだけ農家の栽培、精製努力の理解ができる様になってきたかが反映される結果としての価格上昇であると言えると思います。
消費者も加わって三方良しの好循環へ
さらに言えば消費者もどれだけスペシャルティーコーヒーを十分に賞味できる様になってきたもこの図式にすぽっと入ります。即ち、高品質なコーヒー栽培及び精製努力への消費者と買い手による賞味理解を得て始めて需要側のオファー額が上がり、努力が見なされた農家側もそれに伴って更に質の向上に励むことになります。
言い換えればスペシャルティーコーヒーを取り巻く全者の相互理解を深める事によって、良質なコーヒーを見付け出せない買い手と消費者、また優良豆を生産しても十分な対価で報われない農家の悪循環の構図から、質良し対価良しで全者満足の好循環のものに変化させる事が出来てきているのです。
この新たな構図はCOEの初開催から20年という長期間機能しているのですが、その基盤の一つとなるのはCOE自体が元となった農家と買い手の持続的な関係です。赤道周辺の農家と大半がそれより北に位置する買い手との間には何千キロと言う距離があり、また文化も言語もとても異なる者同士です。よってお互いの関心事などがマッチした者の間のペアリングは言うまでも無く至難の業です。
こう言った状況のもと、COEは大会と入札というスペースをもって相性の合う農家と買い手の出会いをより安易にしているだけでなく、多くの長く続いている両者間の関係に見受けられるように持続的な関係のきっかけとなっています。COEは両者にとって適したパートナーを見つけると言う大変な労力を要する仕事を簡素化し、よりスムーズにそういう関係に入れる様に貢献しています。
次回はもう少しCOEがもたらした利益について書き加え、またその反面どう言った課題がまだ残っているかについて語ります。
スペシャルティーコーヒーの品評会、カップ・オブ・エクセレンス(3)
COEがどれ程農家が受け取る値段を上げ、どの様に日本企業がそれをバックアップしているかについて今回は触れます。
COEの脅威的落札価格押し上げパワー!
COEで売られるコーヒーはどれだけの値段で売られるかと言うと、例えば歴代記録は2018年にコスタリカで一位の座に輝いたコーヒーが1ポンド約300米ドルで売られました。COE入賞豆全てを考慮すると中米のコーヒーの2019年入札結果平均は1ポンドあたり18.43米ドルです。
ここで少し蛇足ですが、上記の例を見るとトップと入賞豆平均の値段にかなり差があります。これは2019年の中米COE結果を見てもそうですが、トップ3は約42米ドル、それ以下は12米ドルと、30米ドルの開きがあります。
これはどの分野でも言えますが、特に勝者そして次にトップ3への対価が大きく、それ以下の参加者に対してはその努力に対する認知の度合いは比較的低くなる事を反映していると思います。
国際価格と中米農家が支払われる価格データにはスペシャルティーではないレギュラーコーヒーも入っており、トップ以下の豆に対する認知度はトップと比較して下がるものの、COEのスペシャルティーコーヒーの価格を上げる貢献度が認識出来ると言えます。
日本の買い手が落札価格高騰に貢献している
ところで実は日本をはじめとするアジア勢が入札で売られるコーヒーの買い手として占める割合が高く、特にこの落札価格上昇に貢献している分もかなりあります。
中米の過去のデータを検証するとトップの買い手として多くの日本企業の名前が上位を占めます。その中で特にワタル、極東ファディ、加藤珈琲、トーアコーヒー、UCC、田代珈琲、日本珈琲貿易といった名前が目立ちはするものの、その他にも多くの日本企業が見受けられます。
こう言った日本企業が毎年の様にCOEの上等のコーヒーを落札しており、毎年の様に落札価格記録の更新を後押ししています。
では何故日本などのアジア勢が買い手の多くを占めているのかと言うと、恐らくそれらの国々を特徴づける学歴社会や資格社会と言った性質に反映される様に、COE大会のような競争で上位を勝ち得たものが良いものなのだろうと言う信頼を持つからだと思います。
このことは特にアジアからするとCOEが開催される中南米やアフリカの国々は欧米から見るより更に遠い世界であるために、こう言った国際ジャッジにバックアップされた品評会を特に頼りにするのだと思われます。
次回は更にCOEのスペシャルティーコーヒー産業への貢献の熟慮を続け、そのお陰でどう言うスペシャルティーコーヒー市場における好循環の構造が作動しているかを思い巡らします。
スペシャルティーコーヒーの品評会、カップ・オブ・エクセレンス(2)
COEの紹介を続けますが、今回は農家にとってCOEで入賞することがどれだけ大変であるかを、大会の運営行程と原則について説明しながらご理解頂きたいと思います。
とても入念な大会の運営行程
前回ご紹介したとおりCOEの主催は優良コーヒー同盟(ACE)と夫々の国のスペシャルティーコーヒー振興機関ですが、運営にはヘッドジャッジも加わります。言うまでもなく、ヘッドジャッジを始めCOEのどのジャッジも経験豊富な選りすぐられたカッパーばかりです。
これらのスーパーカッパーによる目隠し評価とスコア付けがされる事によって客観的、また透明度の高い品質の評価がなされます。加えて公平さと中立性を確保する為に第三者の企業が大会の諸段階における監査をする事によって、更に参加関連者にとって信頼度が高い大会となっています。
この大会では三週間に渡り何千カップがカッピングされますが、その行程は何段階かに別れており、農家がその収穫の最高のサンプルを提出するところから始まります。どの農家でも参加出来るオープンな大会となっており、300から900と言う超大量のサンプル豆が出品されます。
大会の三週間の工程は一週間ごとに別れており、一週目は予備選定を経て二週目は国レベル、そして三週目は国際レベルの週となっています。国レベル、国際レベルと言う名の所以は、一週目と二週目は開催国の地元のジャッジ、三週目は主に消費国籍の国際ジャッジが審査するためです。
この三週間のカッピングラウンドは合計6つあり、予備選定の週は一ラウンド、国レベルの週は二ラウンド、国際レベルでは三ラウンドあります。どのラウンドであっても重大な欠点豆があると即座に除外される程のシビアな品評会です。
COE賞受賞豆はとても厳しい選考行程をクリア
第一ラウンドとなる予備選定の一週目は出品された全てのコーヒーが地元のジャッジによって審査され、86点以上の評価を受けた豆のうち最高150のサンプルが二週目の国レベルの週に進みます。国レベルの週はまた開催国のジャッジによる審査ですが、第二ラウンド目でまた86点以上のもののうち最高90のサンプルが同じ国レベルの週の次のラウンドに進めます。
ここで興味深いのは次ラウンドへ進むための最低スコアが時を経て徐々に上げられた来ている事ですが、COEにおける入賞が段々と厳しくなっている事を反映しています。
国レベルの週の三ラウンド目のカッピングで再度最低86点を達したものの内、最高40のサンプルまでが次週である国際レベルの週に進みます。そして国際ジャッジによる第四ラウンドとなるカッピングの結果最低87点をクリアした、30までのサンプルが同じ週の次ラウンドへ通過します。
続いて第五ラウンドでは最終的にCOE賞が与えられ、オンライン入札に進むコーヒーが選ばれます。同じ週の最終日には第六ラウンドが実施され、前ラウンドのスコアのトップ10を再度カッピングし、最終スコアとランキングが決定されます。
COEはスペシャルティーコーヒー大会の世界基準
こうして最低五回カッピングされたCOE賞受賞豆の生産者は盛大な表彰式にてCOE賞を受け、90点以上のものには特別賞が与えられます。その後オンライン入札準備の一環としてCOE受賞豆は真空パックされたサンプルが世界中の買い手に送付されます。
国際レベルの約六週間後にオンライン入札されますが上位3つの豆は90点以上獲得した場合、入札の際に2つのロットに分けられます。言うまでもなく、オンライン入札で売られた豆は通常農家が受ける値段より断然高い値段で落札します。
この様にCOEは透明度が高く、客観的最優良品を多くのプロによる参加型のメカニズムで選びぬく行程を駆使しているため、スペシャルティーコーヒー豆の質を競い合う大会のベンチマークとなっています。
次回はこうして20年間開催されてきたCOE賞受賞豆がどれだけの高値で売られ、どの様に様々な参加者に利益を与えてきたかについて綴ります。
スペシャルティーコーヒーの品評会、カップ・オブ・エクセレンス(1)
今回から暫く、多くの産地国の農家がその年の収穫豆の品質を競い合うスペシャルティーコーヒーの年次大会、カップ・オブ・エクセレンスについて語ります。
以前スペシャルティーコーヒー産業の発展について少し触れた際にQグレーダーと言うコーヒー鑑定士のシステムやフレーバーホイールなどがその中で重要な役割を果たしている事に言及しました。カップ・オブ・エクセレンスもスペシャルティーコーヒー促進の中心的な立役者なので、大会参加国の生産事情と共により広く知って頂きたいと思います。
カップ・オブ・エクセレンスの誕生
「コーヒーのアカデミー賞」や「コーヒーのオリンピック」という別名でも知られているカップ・オブ・エクセレンス(COE)は、Alliance for Coffee Excellence(ACE、優良コーヒー同盟)が主催するスペシャルティーコーヒーの品評会です。このACEは1970年代に始まったアメリカのスペシャルティーコーヒー運動を代表するパイオニアで、後にスターバックスに1990年代に買収されたコーヒー・コネクションで有名な企業家ジョージ・ハウエルと、スージー・スプリンドラーが中心的創始者です。
COEと言う大会のアイディア自体は国際コーヒー機関(International Coffee Organization, ICO)と国際貿易センター(International Trade Centre, ITC)が1990年代なかばに構想したもので、品評会の優良コーヒーがインターネットを使った入札で売買されると言うインセンティブが組み込まれている大会です。これによってより良い品質のコーヒーの栽培と精製、またその品質にふさわしい農家への対価の支払いを促進する事が目的です。
ここで一つ誤解がないように付け加えますが、COEは何カ国かの優良コーヒー豆の良し悪しを競う世界大会ではなく、参加国が夫々の国内で生産されたコーヒーを競う国内大会です。言い換えるとブラジル大会ではブラジル産のコーヒーだけが出品され、エルサルバドル大会ではエルサルバドル産同士だけで競い合うものです。更にこれも為念の補足ですが、前述の如く出品はニュークロップ、いわゆる収穫されたばかりの豆が対象となり、その為に開催時期も収穫、精製が終わって豆を少し寝かした後に設定されます。
開催各国のコーヒー振興機関もサポート
ACEが主催で産地である数か国で催されるCOEではありますが、開催各国においてそれぞれの国々のコーヒー振興機関がサポート組織として活躍します。COEが開催されている中米の国に関しては以下がそれらの機関となります。
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グアテマラ: Asociación Nacional del Café (ANACAFE、グアテマラコーヒー協会)
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コスタリカ:Instituto del Café de Costa Rica (ICAFE、コスタリカコーヒー協会
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エルサルバドル:Consejo Salvadoreño del Café(Consejo、エルサルバドルコーヒー審議会)
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ニカラグア: Asociación de Cafés Especiales de Nicaragua (ACEN、ニカラグアスペシャルティーコーヒー協会)
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ホンジュラス: Instituto Hondureño del Café (IHCAFE、ホンジュラスコーヒー協会)
因みに上記リストの組織中ではANACAFEとACENは民間組織ですが、設立自体も全く民間のイニシアティブのものはコーヒー専門公的機関が無いニカラグアのACENだけです。それ以外は皆各国の法律によって発足され、コーヒーの輸出額の一部が収入源として確保されています。
今年20周年を迎えたCOE
初回の大会は1999年のブラジルで催されてからは、以下の年に他の国々でも開催され始め、合計12カ国で実施されています。
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2001年:グアテマラ
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2002年:ニカラグア
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2003年:エルサルバドル
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2004年:ホンジュラス、ボリビア
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2005年:コロンビア
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2007年:コスタリカ
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2008年:ルワンダ
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2012年:ブルンディ、メキシコ
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2017年:ペルー
上記のリストを見ると特に初期は中南米の開催国が多くなっていますが、2020年にはエチオピア、またインドネシアでも近々COEが開催される予定となっており、アフリカとアジアでも開催国の拡大が期待されます。残念ながら政情不安などのために大会が催されない年も稀にありますが、どの国でもほぼ毎年開催され続けています。
ところで2019年の今年は世界で初開催となったブラジル大会開催から20周年を迎えており、10月の同国大会では20年前の創始者、その頃からのパートナー、また初回ジャッジなどの豪華メンバーが参加の祝賀会となります。この20年でCOEは12カ国での140の入札回数を通して6千万ドル超の収入を達成しています。一位のコーヒーのポンドあたりの落札価格も、1999年のブラジル大会の2.6米ドルから2018年のコスタリカ大会の300米ドルまで大きく躍進しました。
どの様にしてこう言った大成功を成し遂げたかをご理解頂けるよう、次回ももう少しCOEの運営について綴ります。