試練多き環境下の新設農協の船出(2)
今回もエルサルバドル・アパネカ地方の農園の訪問ストーリーを軸とした、コーヒーの危機と希望に関する投稿です。
美しき農業の姿を具現化した「コーヒー森林」
前回の記事でマヌエルさんの農園の一部の区画がコーヒーから自給自足作物へ転換された背景のいわゆる起爆剤は、スペシャルティーコーヒーの売値を抑止するコーヒー国際価格との連動だと紹介しました。この売値抑止の結果としてマヌエルさんの様な零細農家は収益は低いものの、少なくとも自給自足が出来るトウモロコシやインゲン豆と言った作物への変換を余儀なくされて居る所以です。
ところで実は木陰栽培を軸とする中米のコーヒー農園は人間が作り上げたものなので完全に自然ではありませんが、「コーヒー森林」と言われる程により健全な生物生態系、二酸化炭素から酸素への還元をする光合成の促進、地下水かん養、そして土壌侵食の回避に寄与する環境であります。
これは当然ながら土が露出し木々も無い殆どの農作物栽培には当てはまらないので、農地がコーヒーから他の作物へ転換されるという事はコーヒー農園がもたらす公益が減ると言う形の公害に繋がります。
コーヒーからの作物転換と言う公害
よって、農家がコーヒーによって収入が十分に得られない事は単に彼らにとってだけでなく、より広範囲に農家のコミュニティー、果たしては世界中の人々にとっても悲惨な状況であるのです。
コーヒー以外の作物でも先ず間違いなく一生懸命面倒を見られているマヌエルさんを含む農家の方々には申し訳なくも、やはり瑞々しいコーヒー農園に比べると見た目みすぼらしい荒れ地の様な自給作物畑を目の当たりにするのはとても残念に感じました。
しかしそう捉える傍ら、恐らくマヌエルさんにとってはその転換の判断を取るに当たっては、第三者の私には想像出来ない程悔しく感じただろう事を念じると胸が苦しくなる思いでした。
不法移住や家族崩壊も農村地域の深刻な問題
コーヒーの後退を目の前にし、物悲しく農協の農園に戻ると組合員が生物肥料作成の実習を続けていました。その様子を観察していると女性の組合員と一緒に来ていた小学生の男の子が突然、「英語はどの国で使われているのですか?」と言った無邪気な質問をしてきました。
先ずは英語が公用語である主な国を説明すると私からも彼に幾つかの質問をし、彼の名前がダニエルであり年は10歳、またその日は叔母について来ていることが分かりました。英語に対する興味は一方では通っている小学校で学んでいるからとのこと。
お母さんは?と聞くと、「アメリカへ行っちゃった。」この答えでハッと思ったのは、この子も出稼ぎの為に特にアメリカへ不法移住をする大人達が不在になる事によって家族がてんでバラバラになる、いわゆる家族崩壊の被害者だと言う事です。
次回、パート3に続きます。