コーヒー産地直送!~Qグレーダーの中米便り~

コーヒー鑑定士が産地から、超愛飲家・プロ向けにスペシャルティコーヒー事情や経験談を生中継!

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スペシャルティーコーヒーとの一味ぼれを回想して

カップ・オブ・エクセレンスのシリーズに入る前に今回は少し形態を変えて、私が初めてスペシャルティーコーヒーに出会って心を奪われた時を少し詩的に描写したものをシェアします。

 

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それは決してロマンチックな始まりではなかった事は認めます。

 

無理もありません。そのエッセンスを私の乾いた口で味わう番を待っている間に、賞味方法を教えてくれる方々は音を立ててそれを吸っては口をゆすぐかの様に口中で動かし、終いにはまずかった、と言わんばかりに吐き出す。彼らはカップからカップへと、その様な見るからにはしたない仕草を只々静粛に繰り返すだけでした。

 

熱帯の太陽の下でコーヒーミルを歩き回った後で汗をかき、これからむさぼる獲物を食い入るかの様にテーブルに乗せられたカップを見つめる、エプロン姿の体裁がぶざまな男たちと部屋を一緒にした時から、素晴らしい初対面を期待出来るものではありませんでした。獲物を囲むハイエナの群れかのようなその光景は滑稽で、何か美しいものとの出会いを期待するには場違いとしか思えませんでした。

 

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誤解を招くかも知れないので為念確認します。と言うのも少し前に乾燥、そして湿った香りを嗅いだ時点で感覚が目覚めさせられたのです。

 

ーこれは一体・・・?何故これらのものが花やフルーツに香るのか?これは、私が頻繁に飲む程までには関心を抱かせなかった、何度も口にした事があるあの飲み物とは違う。絶対あれでは無いー

 

それは私をコーヒーのワンダーランドへ連れ、私の興味と期待感を高揚させました。と、それもこれらの男どもの無作法な行為が私を現実に引きずり戻すまででしたが・・・。

 

そして私が儀式を行う番が来ました。まだ温かい液体の水面上に浮かぶコーヒー粉を包むカップが乗ったテーブルに近づきました。これから自分がそのコーヒーに対して犯す無礼への容赦の願いとしてカップに向かってお辞儀をするかのように、私はそっと腰をかがめて浮き粉を崩して鼻を近づけると再び素敵な香りを感じました。乾燥したときよりもマイルドではあるが持続する、異なるアロマを覚えました。何よりも、それは私の興味をそそり戻しました。再度誘惑された私はそのコーヒーに尋ねました、あなたはこれからどれだけ素晴らしいものをこれから私に見せてくれるの?、と。

 

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浮いているコーヒー粉をカップから取り除くと正念場が到来しました。他の男どもがやったように私も卑劣に音を立ててすする時が来ました。それがすでに私に現してくれたものに更に敬意を表す様により腰をかがめ、液体をスプーンですくい、できる限り味わえるようにそれを気化させるが如くズーッと言う音を立てて吸い込みました。

 

これが初めてのコーヒーのカッピング-いわゆる香りと味を感じる事による風味の評価-の経験であったため、私のテクニックはその魅力を適切に評価するには十分で無かったとでしょう。それでも口に入れて動き回したとき、口中は虹のように色とりどりの風味で満たされ、それは直に私の魂に届きました。私はそれに乗っ取られました。そして降伏しました。それは至福を感じさせてくれました。そうしてエクスタシーに達しました。楽天地を見た感でもありました。いくら言葉で表現したくとも言葉が足りないのが悔しいほどの素敵な感じでした。

 

こうして比例なき風味豊かなスペシャルティーコーヒーは私をその虜にしたのです。

 

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次回は絶対に(?)道草を食い続けずにカップ・オブ・エクセレンスに戻ります!

 

試練多き環境下の新設農協の船出(3)

今回はアパネカ地方農園訪問の締めです。不法移住の悲惨の生みの親としてのコーヒー世界価格の低迷、またそれに対抗する中米の農園の努力について語ります。

不法移住は生き残りのやむなき決断

不法移住と言うと聞こえが悪いのでお断りしますが、不法移住をする決断は出身国での最低限の生活保障が出来ない為に止む無しに行う手段だと言う事です。また基本的にはこの様な学校教育年数が低い方たちが合法的にアメリカへ移住する手段はなく、藁をも掴む思いで家庭崩壊などのリスクを覚悟して決断するものです。

私もその様な運命を辿った多くの方々と話を聞きますが、予想通りにほぼ誰もが自分が生まれ育った土地で生活をしたいが、それを可能にする十分な収入を得られないから仕方なく移住を決めた、と言う説明を聞くのが普通です。

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米国でのより良い生活が夢なのは自国でそれが出来ない為のもの

お母さんがアメリカへ行ってしまったダニエルを気の毒に思いながらも気を取り戻して彼と話を続け、英語が話せるようになったら何をしたいか尋ねると、「お母さんが居るアメリカへ行きたい。」

「移民キャラバン」をも生んだスペシャルティーコーヒー国際価格連動体制

それを聞くと家族がバラバラになったダニエルはさぞ悲しい思いをして暮らしているものだろうと哀れに感じました。中米では既に何十年前から彼のように家族がアメリカへ移住し、一緒に暮らせず辛い経験をしている人達がおり、その数はエルサルバドルの場合だと人口の4分の1がアメリカに移住していると推定されるほどです。

つい最近では少し前に「移民キャラバン」と称した、何千と言う中米の不法移民がメキシコ経由4千キロメートル以上の道のりを歩いてアメリカへ渡ると言う社会現象が日本でも報道されたと思います。この様な現象が繰り返される背景には全般的に、治安の悪さと共に中米で最低限の生活をする事の難しさが筆頭に挙げられます。

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コーヒー農園に囲まれた美しいこの湖の景色も作物転換すれば劣化するだろう

ここまで言うと明白な通りスペシャルティーコーヒーの売値が連動されており低迷を続けるコーヒー国際価格にも、農家の低収入に繋がっているために責任の所在があります。その位置づけは多くのメディアでも取り上げられた通りに中心的なものであり、低いコーヒー国際価格が中米不法移民の生活難の主な起因であると言う批判の矛先の代表格として挙げられるのも無理はありません。

移民の悲劇低減に向けて農家の収入増加が必至

今回の訪問でコーヒー農園の経営がどれだけ大変なのかを改めて思い知らされました。売値が低い為に十分な生活が出来なく、農家は作物転換やアメリカへの移住を強いられています。このために家庭崩壊や今回は触れませんでしたがそれに伴う青少年犯罪などの治安の悪化、また海外や都市への移住が発端となる農村の過疎化に起因した農家での人手不足と言った問題に繋がります。その結果としてこれらの要素同士で共振するかのようにお互いが増強し合い、現状の悪循環の構造が築かれる事になります。

そう言う背景がある一方、コーヒー産業でパロ・ベルデ農協のような新たな組織が出現する事はとても好ましい事です。こう言った農協は協力機関の援助を得てコスト削減だけでなく、組合員とその家族がコーヒー農家として最低限の生活をしていける売値の獲得をも目標としています。

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苦境の中援助機関に付き添われ勇敢にも船出をするパロ・ベルデ農協

コーヒー農園は広く環境面で公共の利益をもたらす事も熟思すると、この様な農家がコーヒーで生活を続けられる様努力してくれる事は、世界中の人々がサポートスべきものだと思います。皆さんも美味しいだけでなく環境に優しく、農家の良い生活を可能にしてくれる十分な対価を払った中米のコーヒーを飲むことによって是非応援して下さい。

 

次回からは世界デビューする、歴代COEの結果の独自分析について綴ります。

 

試練多き環境下の新設農協の船出(2)

今回もエルサルバドル・アパネカ地方の農園の訪問ストーリーを軸とした、コーヒーの危機と希望に関する投稿です。

美しき農業の姿を具現化した「コーヒー森林」

前回の記事でマヌエルさんの農園の一部の区画がコーヒーから自給自足作物へ転換された背景のいわゆる起爆剤は、スペシャルティーコーヒーの売値を抑止するコーヒー国際価格との連動だと紹介しました。この売値抑止の結果としてマヌエルさんの様な零細農家は収益は低いものの、少なくとも自給自足が出来るトウモロコシやインゲン豆と言った作物への変換を余儀なくされて居る所以です。

ところで実は木陰栽培を軸とする中米のコーヒー農園は人間が作り上げたものなので完全に自然ではありませんが、「コーヒー森林」と言われる程により健全な生物生態系、二酸化炭素から酸素への還元をする光合成の促進、地下水かん養、そして土壌侵食の回避に寄与する環境であります。

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パロ・ベルデ農協の農園にも見られる美しきコーヒー森林

これは当然ながら土が露出し木々も無い殆どの農作物栽培には当てはまらないので、農地がコーヒーから他の作物へ転換されるという事はコーヒー農園がもたらす公益が減ると言う形の公害に繋がります。

コーヒーからの作物転換と言う公害

よって、農家がコーヒーによって収入が十分に得られない事は単に彼らにとってだけでなく、より広範囲に農家のコミュニティー、果たしては世界中の人々にとっても悲惨な状況であるのです。

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コーヒーからとうもろこしへと転換されてしまった区画

コーヒー以外の作物でも先ず間違いなく一生懸命面倒を見られているマヌエルさんを含む農家の方々には申し訳なくも、やはり瑞々しいコーヒー農園に比べると見た目みすぼらしい荒れ地の様な自給作物畑を目の当たりにするのはとても残念に感じました。

しかしそう捉える傍ら、恐らくマヌエルさんにとってはその転換の判断を取るに当たっては、第三者の私には想像出来ない程悔しく感じただろう事を念じると胸が苦しくなる思いでした。

不法移住や家族崩壊も農村地域の深刻な問題

コーヒーの後退を目の前にし、物悲しく農協の農園に戻ると組合員が生物肥料作成の実習を続けていました。その様子を観察していると女性の組合員と一緒に来ていた小学生の男の子が突然、「英語はどの国で使われているのですか?」と言った無邪気な質問をしてきました。

先ずは英語が公用語である主な国を説明すると私からも彼に幾つかの質問をし、彼の名前がダニエルであり年は10歳、またその日は叔母について来ていることが分かりました。英語に対する興味は一方では通っている小学校で学んでいるからとのこと。

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英語の勉強に励む10歳のダニエル

お母さんは?と聞くと、「アメリカへ行っちゃった。」この答えでハッと思ったのは、この子も出稼ぎの為に特にアメリカへ不法移住をする大人達が不在になる事によって家族がてんでバラバラになる、いわゆる家族崩壊の被害者だと言う事です。

 

次回、パート3に続きます。

 

試練多き環境下の新設農協の船出(1)

先日エルサルバドルコーヒー審議会の友人、エルネストに招待されて同国の最大コーヒー産地にあるアパネカ地方の農協を訪問しました。パロ・ベルデと称する、去年設立されたばかりのその農協の農園は海抜1,400メートル以上と言うスペシャルティコーヒー栽培にはもってこいの素晴らしい環境にあります。この様な中米の農家が直面する厳しい現状と希望を紹介します。

新設農協と支援機関一体の有機農業導入の取り組み

コーヒー審議会事務所があるエルサルバドル首都圏から陸路1時間半、エルネストら審議会メンバーとパロ・ベルデ農協の農園に午前9時頃到着して車両から降りると、我々が住んでいる標高900メートルの首都圏よりも涼しい空気に迎えられました。この地域は私も住んでいる標高900メートルの首都圏に比べ曇りがちですが、これは暑い南国に住んでいる人々にとっては気温を下げ、有難く感じるものです。

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生物肥料の理論的な研修を受ける組合員

今回の訪問の趣旨は同農協に対して生物肥料の作り方と使い方の指導です。これは20名の零細農家組合員を持つこのパロ・ベルデ農協が、コーヒー審議会と手を組んだイタリア政府の国際協力資金を運用するアフリカ70と言うNGO(非政府組織)から、コーヒーの栽培全般に関して受ける研修の一環です。

こうして生物肥料の利用を促進する根拠には、より広く一般に使われている化学肥料が起こす土壌汚染を防ぎ、また農家にとっての施肥コスト削減を図るものです。この様な有機農業の手段は、資金力は弱いが農園での労力に費やす時間はある零細農家にとってはもってこいの栽培改善策です。

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生物肥料作成の実践研修

この日も多くの組合員が理論的な研修を受けた後、農家が安易に入手できる材料を使って実際に皆で和気あいあいと後に農園に施肥する生物肥料を作りました。

コーヒー国際価格連動の罪

組合員が実習を行う合間を縫って、私はエルネストに誘われて近くに住む90歳のコーヒー零細農家、マヌエル・アマヤさんの農家を踏査させて頂きました。マヌエルさんの農園は小さくも木々の枝に深い緑のパカマラ等のバラエティがびっしりと実っており、高齢にも関わらずコーヒーの世話に大いに精を出されておられる事が感じられました。

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高齢でもまだまだ達者なマヌエルさん(中央)

そんな活気のあるマヌエルさんの農園ではありますが、園内を散策すると生い茂るコーヒーの木々とは対象的に、その青々さと比べるからだろうが、何らかの作物があるものの痩せこけた様な地面が顕になった印象の強い区画が二つほど見受けられました。

エルネストによると以前はそれらの区画も生き生きとしたコーヒー農園だったのだが、他の多くのコーヒー農家同様に最低限の生活を可能にしてくれる値段でコーヒーが売れないために、作物転換が進んでいるとの事でした。

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コーヒー農園内で自給自足作物に転換されてしまった区画

より具体的に言えばコーヒーの一ポンドが一米ドルに満たない値段でしか買い取られないとの事です。これは簡単に言えば以前にもこのブログで紹介した通り、こう言う高品質なコーヒーを、レギュラーと差別化してスペシャルティーコーヒーとして売ることが出来ていない多くのコーヒー農家が直面する、コーヒー国際価格との連動の為だと言えます。

 

次回、パート2で農協訪問の続きを紹介しますのでお楽しみに。

 

まろやかなワイン風味のグアテマラ・コーヒー

暫く振りになってしまいましたが前回に続き、先日経験したカッピングイベントについて綴ります。今回はグアテマラで10年ぶりに再会したカッピングの先生との素晴らしいコーヒーの査定のお話です。

元ANACAFEのチーフ・カッパーとのカッピング

今回はエルサルバドルから陸路を通してグアテマラを訪問し、10年ぶりに私のカッピングの先生、エドゥアルド・アンブロシオを訪問しました。その当時グアテマラのコーヒー業界統括機関であるANACAFEのチーフ・カッパーであったエドゥアルドは、グアテマラ産を始めとするスペシャルティーコーヒーの素晴らしさについて大いに教えて頂いた方です。

その昔の話になりますが、某商社のエルサルバドル事務所に勤務していた私は上司の指導の元中米レベルでコーヒーを扱っており、素晴らしい品質の為に取扱量も多かったグアテマラのコーヒーをカッピングするために良くANACAFEのカッピングラボを訪問していました。

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絶妙な風味のグアテマラのコーヒー

そういう所以で我々のANACAFEとエドゥアルドとの関係は親密なものであり、ある時は例えば弊社とANACAFEが力を合わせて日本からのコーヒー研修生を受け入れた程です。同研修はグアテマラ・コーヒー情報や知識についてのプレゼン、また複数生産地域のコーヒーのカッピングと遠く離れた農園の訪問を含んだとても豊富なものであり、通訳を兼ねて参加させて頂けた私にとっても非常に有意義な経験となりました。

現在では中米を代表するQインストラクター

そんなエドゥアルドとの再会が出来たのはグアテマラを訪れる機会が到来した為で、久々にエドゥアルドをコンタクトすると彼も親切に面会依頼を受け入れてくれました。実はエドゥアルドは数年前にコーヒー・スクールとコーヒーの輸出を軸に起業しており、中米でQグレーダー資格を与える検定士として筆頭的な存在にまでなっています。 

エルサルバドルの多くのQグレーダーがエドゥアルドの下で資格を得たことを聞いていた私は、そんな名誉高き彼と久々に面会して話が出来る事だけでもとても楽しみにしていたのですが、カッピング・セッションを準備して頂くオファーまでもらい、恐縮ではあるものの喜んで受け入れました。

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エドゥアルドは奥さん、兄弟と共にコーヒービジネスを行う

コーヒー業界での成功を絵に描いたようなエドゥアルドの事務所はグアテマラ郊外の、数年来大繁盛の高級店が並ぶショッピングセンターに隣接した綺麗なオフィスビルに位置していました。エドゥアルドの秘書に案内され事務所に入ると彼が暖かく迎えてくれ、カッピング・セッションの準備が出来た部屋で再会の喜びを分かち合うように夫々の10年来の経緯を一通り話し合うとカッピングに移りました。 

まろやかなワインの傑作コーヒー

この時のセッションには何と、夫々が3カップに投入された12ものサンプルが準備され、二つのテーブルに別れていました。エドゥアルドが気を効かせてこんなにまで多くのコーヒーを評価させて頂ける事に有難く思いながら先ずは一つ目のテーブルにある6サンプルを嗅ぎ、口に含むと何年も感じていない風味のためか、最初は正直言いますとその感覚の特定に手こずりました。

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エドゥアルド先生との貴重なカッピング・セッション

と言うのも多くのサンプルに何か、より慣れているエルサルバドルのコーヒーには殆ど、或いは全くと言って良い程感じた事が無い、とても興味深い風味特性があったのです。より神経を集中し、二ラウンド目をトライするとその特出した感触がワインの風味である事を認識しました。そうするとエドゥアルドとの再会を楽しんだ直後に、そうした傑出したグアテマラのコーヒーとの再会をも満喫出来たその日がとても記憶に残るものになりました。 

二つ目のテーブルにもやはり味わい豊かなワイン風味が強く感じられるものがありました。また、後にゲイシャであると確認されたブルーベリーやジャスミンが感じられるサンプルがあり、これについては結構パナマ産や特に良いエルサルバドル産に似た感じのものでした。このゲイシャはそのカップの高品質で有名なバラエティですが、実は今回のカッピングの多くのサンプルはカトゥアイやサルチモールと言った、特に優れたカップを生まないバラエティである事に驚かされました。

新産地を含む味わい深きコーヒー

もう一つこの最後の件に関して学んだことはグアテマラの首都から北部へ百キロ弱にあるバハ・ベラパスと言う地域でとても味わい深いコーヒーが栽培されていることです。この地域はANACAFEが促進するグアテマラを代表する8つのスペシャルティーコーヒー生産地域の一部ではなく、グアテマラで最良のコーヒーはそれらの地域に限るものと思っていた私にとっては大きな驚きでした。

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味わいしては感想を分かち合う

12のサンプルのうち、4サンプルがバハ・ベラパスのコーヒーだったのですが、何れも今回カッピングした中ではワイン風味が特出した素晴らしいものでした。その他にもグアテマラを代表する知名度高きメキシコとの西部国境に面するウエウエテナンゴのサンプルも3つあったのですが、それ以外は首都周辺から東部と南部に広がるフライハネス地方が4つ、また東部のホンジュラス国境に面したヌエボ・オリエンテが一つありました。

エドゥアルド曰く、グアテマラでは近年どの産地でも農家の努力により栽培や精製技術が大幅に向上したため、どこのコーヒーでもとても高い品質に仕上げているとの事。その改善は目覚ましく、その為に例えあまり高品質カップとして見なされていないバラエティの豆でも、絶品に仕上げられているとの事です。

今回その様な素晴らしいコーヒーの味わいを確認させて頂いた私としては、ただただグアテマラのコーヒー業界の層の厚さを認識させられ、世界中に多大なる愛好者を持つ背景にはグアテマラの農家によるそれだけの奮闘があっての事だとつくづく思わされました。

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グアテマラの豊かな環境は素晴らしいコーヒーを生む

今回のグアテマラでのカッピングで学んだことは多く、エドゥアルドに大感謝でエルサルバドルへ戻った私は後日コーヒー農協の農園を訪問しました。次回はその模様をお届けします。

 

バリスタ・チャンピオン主催の世界同時カッピングに参加!(3)

さていよいよ世界同時カッピング、エルサルバドル・チームのセッションの模様をお伝えします。

現場についた時には既に準備万端!

こうして9月21日(土)のカッピングセッション当日を迎え、私はその日ホフマン氏のストリーミング配信が始まるエルサルバドル現地時間の午前8時の数分前に、現地チームのセッションが実施されるコーヒー審議会のコーヒー・スクールを訪れました。その時には既にカッピング参加者とセッションの運営関係者が揃い、そこからのカッピングとストリーミング配信の機材が適宜配置されており、準備万端でした。

ニコラスが率いるエルサルバドル・チームのインターネット経由のストリーミング配信はホフマン氏の生放送が画面下方に投影されて見える様になっており、画面上部にカッピングやコメントをする我々が映りました。そのエルサルバドル・チームのカッピング・テーブルのセットアップは、5つのコーヒーが2セットテーブルに乗せられたものでした。そのテーブルに面して真ん中に司会のニコラス、そして彼の両側に二人づつプロのカッパーが位置しました。

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世界同時カッピングにおけるエルサルバドル・チームのストリーミング配信

ジャーナリストとしてニコラスが考えたこのプレゼン様式は、エルサルバドル・チームも含み今回の世界同時カッピングの視聴者の多くがコーヒーのプロではなく、愛好家である事を意識してのものです。彼自身コーヒーの愛好家であり、報道のプロでもあるニコラスが、コーヒーのプロのカッパーの意見や知識を解説して視聴者にお伝えする、と言う意向のものです。 

3・2・1、ストリーミング配信開始!

そして遂にホフマン氏の配信が始まると、同氏は今回のカッピングに至る経緯やイベントの目的、またホフマン氏側の準備やロジスティックス面での四苦八苦などがカッピングの前置きとしてプレゼンされました。エルサルバドル側でもストリーミング配信が開始され、ニコラスが我々を紹介するとホフマン氏のプレゼンの主要な部分を拾って訳したり、解説しました。

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世界同時カッピング主催のジェームズ・ホフマン氏

ニコラスの両側に立っている我々カッパーにも幾つかコーヒーの味覚や栽培、精製と言った多岐にわたる疑問点についての回答を促され、そう言ったノウハウを視聴者に知って頂くと言う流れでイベントの前奏が過ぎていきました。それが終わると遂にカッピングの時が訪れ、カップを覆う蓋を取りフラグランスを感じ、お湯を注いでクラストを割ってアロマを嗅ぎ、コーヒーを口中にし、エルサルバドルの5人が5つのコーヒーを試しました。

一通り評価をした私の率直な意見は、全てスペシャルティーコーヒーではあるものの3番から5番がより特徴のあるものであり、香りに限るとブルーベリーが感じられる3番、そして特にその性質が強い4番はより高品質に感じました。カッピング評価に基づいた産地の特定に関しては、1番と2番がコロンビアか中米、3番と4番がアフリカ勢で特に前者がエチオピア、後者がケニア、そして5番のスパイシーさの為、これはイエメンではないか、と言うのが私の予想でした。

コーヒーへの情熱を分かち合い友情を深めさせてくれるカッピングの世界

ホフマン氏がコーヒーの正体を暴くと1番がニカラグア、2番がグアテマラ、3番がエチオピア、4番はケニア、そして5番もまたエチオピアだったので、ほぼ全てが当たりと言う結果でした!最後のエチオピアは少々外れましたが予想したイエメンとは隣国同氏であり、カッパー歴何十年もの方でもエチオピアとイエメンを混同する事もあるのですが、そこは自分としては識別に向けての訓練を重ねていくのが必至だと感じたものです。

セッションの一環として司会のニコラス夫々のカッパーにどのカップが特に高品質に感じられたかと聞かれるとほぼ皆が口を揃えてが4番のケニアを筆頭で挙げ、好感度2番めとしては3番のエチオピアが多く選ばれました。私も1番はケニア、そしてその次として香りまでは同じく3番目のエチオピアが優れていると感じましたが、最終的に味覚が入ると魅惑的なスパイシーさの為に5番かな、と言う結論により少々他のカッパーと意見が割れました。

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世界同時カッピングへのエルサルバドル・チームの参加を可能にした皆

でもその当たったか外れたか、意見一致の有無と言う話とは別に、コーヒーへの愛情いっぱいの者同士、このコーヒーのこの特性はこうあり、こういう魅力がある、と言ったコミュニケーションをシェアし合うのがカッピングの醍醐味だと思います。この時のカッピングでも私は隣でカッピングしたエルネストとお互いの感触を分かち合い、例えば3番以降がより明確でより良いのでは、等と感想を交換するとカッパー同士としての一体感が広がる思いでした。 

ストリーミング配信の挨拶で筆頭で名が挙げられたエルサルバドル

今回のカッピングは、ホフマン氏のユーチューブ・チャンネルに掲載されているストリーミングしたビデオが、2019年9月30日現在で22,000以上の視聴回数に達している事から見ると大成功だと言えると思います。またもう一つの統計によるとカッピング最中は1,770人もの視聴者がホフマン氏のストリーミング配信を見ていたとの事なので、正式ではないものの目論見通りギネス記録を塗り替えた事になります。

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エルサルバドル現地の主要日刊紙に掲載された世界同時カッピングの記事

エルサルバドル・チームに関してもニコラスのコーヒーの取得努力を報うかの様に、ホフマン氏はストリーミング配信の20分時点で何カ国かへの挨拶の言葉を言った際にエルサルバドルの名を筆頭で挙げました。またカッピングの二日後にはエルサルバドルの現地新聞でもチームの参加が取り上げられ、とても思い出深いイベントとなりました。

最後になりますが、以下にホフマン氏とエルサルバドル・チームのストリーミング配信ビデオのリンクをシェアしますので是非御覧下さい。

 

次回もカッピングの話を続けるものの場所を少し変えて、グアテマラにおける私のカッピングの古き先生とのセッションについて紹介します。

 

バリスタ・チャンピオン主催の世界同時カッピングに参加!(2)

前回に続けて話題は世界同時カッピングです。今回は私を含むエルサルバドルからの参加チームリーダー役、ニコラスのカッピングに使用するコーヒーを含むパッケージを得るまでの奮闘を紹介します。 

カッピングのパッケージを受け取るべきニコラスの大奮闘

今回の世界同時カッピングにエルサルバドルからの参加を可能にした、前回紹介しましたニコラスですが、実は中米ではニコラスが唯一参加を取得しました。その視点からしてもこの機会に参加させて頂けることは私としましてはとても光栄に思いました。 

ところで後にニコラスから聞いた話によると参加が確認されてからカッピング・パッケージを手にするまではロジスティックの面でかなり大変な目に遭ったそうです。と言うのもエルサルバドルのコーヒー審議会からだけでなく、保健省からもコーヒー豆の輸入許可に関する手続きをせねばならなく、しかも彼自身も一輸入業者としての登録もしなければなりませんでした。

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ロジスティクスは商業レベルのコーヒーの輸送でもネックとなる

パッケージの輸送に関してもニコラスはかなり細心の注意をはらい、船による輸送のトラッキングをインターネットで追ったのですが、輸送船が出発の港に留まりなかなか出港しない事を確認するとその懸案をホフマン氏チームに伝え、そうするとホフマン氏には即座に無料で空輸による送付を手配して頂けたとの事です。とても親切なご対応ですね。

エルサルバドル・チームの参加は主要日刊紙にて大報道 

それで何とかイベントまでに無事にパッケージを受領すると、今度は輸入に関わる税金として60米ドルもの支払い義務がある事を言い渡されたとか。

思いがけなく多額な出費をしたニコラスが言うには、このハプニング続きの結果手にしたパッケージは彼の今までの人生で一番高いコーヒーだとの事。150グラムのコーヒーが何十米ドル、更に取得するのにそんなに大変だったのだから確かにその通りですね。

もう一つ余談ですが、実はニコラスとしてはどうしても今回のカッピングへの参加を実現させなければいけない理由がありました。と言うのもこのエルサルバドルからの参加については既にエルサルバドルの主要日刊紙にインタビューされ、記事として報道されていたのです。

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エルサルバドルの世界同時カッピングへの参加が大々的にとりあげられた現地新聞記事

そんな報道がされてから輸送の遅延や輸入手続きの必要性が明らかになったので、イベントまでにパッケージを取得し輸入手続きが間に合うかとかなりヤキモキし、しかも関連の出費も想定外に高く付き、不安とストレスでいっぱいの数日だったとの事です。 

ニコラスの大健闘のお陰でエルサルバドル・チームは参加へ

聞くところによるとイギリス以外のヨーロッパの国々でもパッケージが間に合わなかったケースがあり、より遠く離れた中米への輸送を時間内に実現させたニコラスは偉業をなしたと言えます。

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かくしてエルサルバドル・チームは世界同時カッピングに挑む事に

いずれにせよ最終的にエルサルバドル・チームの参加は実現し、ニコラスとホフマン・チームの支援のおかげで豆は世界同時カッピングセッションに間に合ったのですが、そこまでしてこのカッピングセッションへの参加を可能にして頂けたニコラスには大感謝です!

 

さて次回は遂に当日のストリーミング配信の様子をお伝えします。