コーヒー産地直送!~Qグレーダーの中米便り~

コーヒー鑑定士が産地から、超愛飲家・プロ向けにスペシャルティコーヒー事情や経験談を生中継!

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試練多き環境下の新設農協の船出(3)

今回はアパネカ地方農園訪問の締めです。不法移住の悲惨の生みの親としてのコーヒー世界価格の低迷、またそれに対抗する中米の農園の努力について語ります。

不法移住は生き残りのやむなき決断

不法移住と言うと聞こえが悪いのでお断りしますが、不法移住をする決断は出身国での最低限の生活保障が出来ない為に止む無しに行う手段だと言う事です。また基本的にはこの様な学校教育年数が低い方たちが合法的にアメリカへ移住する手段はなく、藁をも掴む思いで家庭崩壊などのリスクを覚悟して決断するものです。

私もその様な運命を辿った多くの方々と話を聞きますが、予想通りにほぼ誰もが自分が生まれ育った土地で生活をしたいが、それを可能にする十分な収入を得られないから仕方なく移住を決めた、と言う説明を聞くのが普通です。

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米国でのより良い生活が夢なのは自国でそれが出来ない為のもの

お母さんがアメリカへ行ってしまったダニエルを気の毒に思いながらも気を取り戻して彼と話を続け、英語が話せるようになったら何をしたいか尋ねると、「お母さんが居るアメリカへ行きたい。」

「移民キャラバン」をも生んだスペシャルティーコーヒー国際価格連動体制

それを聞くと家族がバラバラになったダニエルはさぞ悲しい思いをして暮らしているものだろうと哀れに感じました。中米では既に何十年前から彼のように家族がアメリカへ移住し、一緒に暮らせず辛い経験をしている人達がおり、その数はエルサルバドルの場合だと人口の4分の1がアメリカに移住していると推定されるほどです。

つい最近では少し前に「移民キャラバン」と称した、何千と言う中米の不法移民がメキシコ経由4千キロメートル以上の道のりを歩いてアメリカへ渡ると言う社会現象が日本でも報道されたと思います。この様な現象が繰り返される背景には全般的に、治安の悪さと共に中米で最低限の生活をする事の難しさが筆頭に挙げられます。

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コーヒー農園に囲まれた美しいこの湖の景色も作物転換すれば劣化するだろう

ここまで言うと明白な通りスペシャルティーコーヒーの売値が連動されており低迷を続けるコーヒー国際価格にも、農家の低収入に繋がっているために責任の所在があります。その位置づけは多くのメディアでも取り上げられた通りに中心的なものであり、低いコーヒー国際価格が中米不法移民の生活難の主な起因であると言う批判の矛先の代表格として挙げられるのも無理はありません。

移民の悲劇低減に向けて農家の収入増加が必至

今回の訪問でコーヒー農園の経営がどれだけ大変なのかを改めて思い知らされました。売値が低い為に十分な生活が出来なく、農家は作物転換やアメリカへの移住を強いられています。このために家庭崩壊や今回は触れませんでしたがそれに伴う青少年犯罪などの治安の悪化、また海外や都市への移住が発端となる農村の過疎化に起因した農家での人手不足と言った問題に繋がります。その結果としてこれらの要素同士で共振するかのようにお互いが増強し合い、現状の悪循環の構造が築かれる事になります。

そう言う背景がある一方、コーヒー産業でパロ・ベルデ農協のような新たな組織が出現する事はとても好ましい事です。こう言った農協は協力機関の援助を得てコスト削減だけでなく、組合員とその家族がコーヒー農家として最低限の生活をしていける売値の獲得をも目標としています。

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苦境の中援助機関に付き添われ勇敢にも船出をするパロ・ベルデ農協

コーヒー農園は広く環境面で公共の利益をもたらす事も熟思すると、この様な農家がコーヒーで生活を続けられる様努力してくれる事は、世界中の人々がサポートスべきものだと思います。皆さんも美味しいだけでなく環境に優しく、農家の良い生活を可能にしてくれる十分な対価を払った中米のコーヒーを飲むことによって是非応援して下さい。

 

次回からは世界デビューする、歴代COEの結果の独自分析について綴ります。