スペシャルティーコーヒーの品評会、カップ・オブ・エクセレンス(5)
COEイントロの最終回に近づきました。今回はCOEがもたらす利益をもう少し深く探ります。
資本投資を可能にするCOE
COEの有益効果として、農家がよりその生産努力に見合った対価が支払われる様になってきた事を論じました。ではより収入が増えた農家はその資金をどの様に使っているのでしょうか?
その一部は次の年以降も更に美味しいコーヒーがより多く採れるよう、老いた木の植え替え、作付け面積の増大、精製所の修理などに充てます。これは当然ながら良いコーヒーの生産とそれに対する高い対価がその年だけに終わらないようにするには必要な投資となります。
この様に既にある資源や機材などの生産インフラへの投資は既に達している品質のコーヒーを生産し続けるには必要不可欠ですが、スペシャルティーコーヒーは競争が激しい世界なので農家としては以前より更に高い品質の豆の生産を心がけなければいけません。
イノベーションの促進もCOEの賜物
そうするにはすでにある優良栽培、精製技術の採用と言う可能性もありますが、失敗のリスクを心得ながらも敢えて新たな技術を試すやり方もあります。前年のCOEでの高い落札額がこの様な農家のトライを可能にするのですが、こうしたいわゆる試行錯誤の全てではなくとも幾つかが好結果を生み、再びCOE入賞し高い落札額を得る事が可能になります。
こうなると、高品質の豆による高い落札額が次の年以降のイノベーション的な投資を可能にし、その様な投資が更に品質向上をもたらした結果としてまたCOE入賞及び高落札額を来すと言う、これまた前回紹介したものとは違うが並行した形の好循環の誕生となります。
この様にイノベーションの下に技術革新が起きると時とともに少しづつその技術は他の農家にも広がり、産業全体の生産性や品質向上能力の底上げに繋がります。こうして後に広範囲のプレーヤーにとって利益となる可能性を持ったイノベーションを生む者に高い落札額が与えられるというインセンティブによって、そう言った試みを促進するCOEは正にスペシャルティーコーヒー産業発展の要的な役割を果たしています。
最低限の生活基準確保にも寄与
より高額な落札額の、農家にとってもう一つ重要な用途がありますが、これは農園の労働者やその家族の保健衛生、教育を始めとする生活改善のための投資です。これはよりビジネス寄りの人的資源の観点から見ても重要な事項ですが、社会福祉的にも重点を置くべきものです。
大きな農園では労働者の人権尊守の一環としてこう言った分野で援助を行っているものもあり、零細・小農家にとっても人間として必要最低限の生活をするためにCOE入札及び落札などがもたらす高収入は文字通り人生を左右します。
この最後の点に関してですが、最近北中米のメディアでよく取り上げられているニュースとして、コーヒーの国際価格低迷のために中米からアメリカへ不法移民として渡るコーヒー農家やその労働者が近年特に増えている事が思い出されます。この様に不法でも移住を試みるのは農家にとってのコーヒー販売価格が低すぎ、その収入減に伴って十分な生活レベルが確保出来なくなるからです。
こうしてCOE入賞によって高値でコーヒーを売れると言うことは、農家にとっては自国で生活をしていくための保障と希望を与えてくれるものです。
次回はいよいよCOEイントロの締めをします!