コーヒー抽出法大会ジャッジに挑戦!(パート3)
今回はいよいよ抽出法大会当日のストーリーです!普段より写真を多く載せましたので、その日の雰囲気をお楽しみ下さい。
連休の賑やかな会場
フアユアはエルサルバドル西部にある、国の歴史的に最も重要な高地のコーヒー産地に四方を囲まれた小さな町。高度1,000メートルに位置している為に避暑地として、休日は近隣のより暑い低地に住む観光客でいっぱいになります。
コーヒー抽出法大会が開催されたのは、80kmしか離れていない首都サンサルバドル守護天使の祭りの連休中だったので、とても賑やかでした。大会の会場はフアユア市役所前にある中央公園広場で、広場いっぺんには食べ物や飲み物をはじめとする多種多様な露店が所狭しと売り込みをしていました。
私自身この公園は過去によく訪れているのですが、その日も定番の大きなアルビノの白蛇が観光客の首に巻かれていましたが、その日はそれを物珍しく見学する人々が普段よりより多く群れ上がっていました。
概ねその様な状況でしたが抽出法大会会場の直ぐ周りも負けないくらいのお祭りムードで、大会に参加するバリスタが所属するショップをはじめに、いくつかの店がコーヒーカート等を利用してコーヒーを展示し、売り込みに存分に精を出していました。
様々なバックグラウンドのバリスタが参加
大会開始の時が訪れると参加した9人のバリスタが次々に会場の前面でそれぞれの機材準備、そしてプレゼンとコーヒーの抽出をしていきました。エルサルバドルの地方で開催の比較的小さな大会ではありましたが、準備された観客席が足りなくなり立ってイベントを眺める見物人が何人も出る時もある程に町を訪れた観光客の関心を集めた大会となりました。
参加バリスタは見たところ20代の若者ばかりと言う点では共通していたものの、9人のうち3人はコーヒーショップに所属していなく、また2人の女性の参加もありました。それに加えてバリスタ所属の店の所在地は地元フアユアだけでなく、隣の町であるサルコアティタンともう少し離れたチャルチュアパのものもあり、バライエティーに富んだ方々でした。
バリスタが大会に選び使った抽出器具はケメックス、或いはV60でした。使われた豆はエルサルバドルで開発されたパカマラが多かったですが、中にはゲイシャもありました。
プレゼンでは使った抽出器具の選択根拠やその歴史はもとより、豆についても風味の特徴だけでなく精製方法や焙煎についても何日間どの方法で乾かした、何度の焙煎温度でどの状態まで持っていったなど、とても詳しく一生懸命に説明する方もいました。
改善の余地はありしもコーヒー良し、プレゼンも良し
バリスタによるプレゼンが行われるとメインステージのその場でジャッジが香りと風味を一通り知覚した後、ジャッジチームはカップを持ちバックステージに移動し、それぞれの評価をヘッドジャッジが集計する。この過程を一人ひとりのバリスタと繰り返しながら大会が進んでいきました。
参加者バリスタの評価に関しては前述の如くプレゼンは明快によく頑張ったバリスタが多く、彼らが入れたコーヒーにおいても素晴らしいものがありました。その中でもゲイシャは特に冷えた後に豊かにその特徴を存分に披露していました。
評価する際に一点多少驚かされたのは抽出比率の高いコーヒーが幾つかあったことで、やや濃すぎるために様々な風味が重くのしかかり合い、風味評価が困難となる事でした。最も濃いものにはコーヒー対水比率が1:10のものがあり、もっと薄かったら様々な風味がより明確に出て評価もより良かっただろうに、と言うものがあり勿体無い気がしました。
このような感想が参加バリスタの為になるよう、後に大会が終わった時には良かった点の褒め言葉と一緒にパフォーマンス改善に向けたサジェスチョンを記したものを、ジャッジチームから各バリスタに与えました。現地のコーヒーのプロモーターであるバリスタの皆さんには、これからも頑張って一層美味しいコーヒーを多くのエルサルバドル人に入れて頂きたいものです。
無所属の女性バリスタが3位の大健闘!
皆のプレゼンと抽出、そしてジャッジチームの評価が全て終わると全参加者審査の集計に移りました。
結果発表がされると一位と二位の座はそれぞれチャルチュアパとフアユアの男性バリスタが勝ち取りましたが、三位には何とショップに所属しない女性バリスタが入賞すると言う大健闘ぶりでした。日本や欧米でさえも、特にバリスタ等のコーヒー技術を競い合う大会では女性の参加が低い事が問われている折、産地の抽出法大会で女性が入賞に輝くのはとても喜ばしく、これからの更なる活躍が期待されます。
途中雨が少々降ったにも関わらずフアユアの抽出大会はこの様に盛大に大成功に終わりました。これからもエルサルバドルの全域で皆さんがより美味しいコーヒーが飲める為、また国産コーヒーの需要拡大を図る為にコーヒー審議会が他の地域でもこの様な大会を開催出来ることを期待します。
コーヒー抽出法大会ジャッジに挑戦!(パート2)
フアユアコーヒー抽出法大会について
「新友」となったマヌエル・ビンデルにジャッジとして招待してもらったのですが、参加させてもらったその抽出法大会と言うのはどういう形態のものかと言うと、バリスタが各自選んだ抽出方法でコーヒーを入れて競い合うものです。
この大会は中米エルサルバドル西部のコーヒー産地、フアユアで開催されたFestival con Aroma a Café(コーヒーの香りフェスティバル)の一環で第一回目のイベントでした。フアユアで開催された数日前に同じくエルサルバドル西部のコーヒー産地であるサンタ・アナで同様の大会が開催されたばかりでした。
コーヒー審議会が主催するこの様な大会の趣旨は国産コーヒーの消費の促進によって零細・小農家への支援をする事ですが、特にこの大会の場合は抽出技術の競争を通して使用改善の奨励が目的です。エルサルバドルを初めとする多くの中米産地は気候変動や国際市場価の長年の下落などのために、近年コーヒー農家の経済基盤が大いに脅かされています。
よって、この様な場でもQグレーダーとして役に立てるのはとても光栄であり、そう言う重要な役割がある事は任務遂行にあたって一層の励みとなります。
大会規定はWBrCをもとに
当然のことながら大会である限り規定があり、この抽出法大会においては基本的には世界レベルの標準とも言うべきワールド・ブリューワーズ・カップ(WBrC)と言う世界大会のルールを使っています。この世界大会は手動の器具を用いて抽出技術を競い合うイベントで、2011年から開催されています。多くの国々のチャンピオンが競い合うこの大会では日本人も何度か入賞しており、特に2016年にはワールドチャンピオンの座に輝いています。
WBrCには2つの競争形態があるのですが、フアユアの抽出法大会ではそのうちのオープン・サービスと称した競技方法に則ったものとなっています。オープン・サービスの意味するところは、抽出方法以外に豆とジャッジに出す器をバリスタが任意で選べる事です。
世界大会とは多少ルールが違う部分もありますが、参加者には一回限りの合計15分のラウンドが与えられます。そのうち、5分で器具や豆挽きなどを準備し、10分でジャッジに対するプレゼンテーションとバリスタ各自が選んだ方法で抽出を行い、それぞれのジャッジに一カップずつコーヒーを入れます。 評価基準は感覚とプレゼンテーションの双方です。
審査員は4人ですが、1人のヘッド・ジャッジがリーダー役です。ヘッドジャッジの役割は調整役の他に、参加バリスタがヘッドジャッジ以外のそれぞれのジャッジに一カップずつ与えるコーヒーの均一性を評価します。今回私が任されたのは3人のジャッジの一人としての参加でした。
WBrC指定カッピングフォーム
フアユアの抽出法大会では規定だけでなく審査フォームもWBrC使用のものを使います。 ヘッドジャッジとその他のジャッジの役割が違うためにフォームも異なるのですが、ご参考までに以下に3人のジャッジ用の審査フォームイメージを紹介します。このフォームについてはこの場においては敢えてあまり詳しくは説明しませんが、感覚評価に関しては多少の違いはあるもののSCA(スペシャルティーコーヒー協会)フォームにある評価事項と基本的に同じものが含まれています。
もう少しだけ触れると感覚評価事項は7つですが、これはSCAフォームの10項目より少なくなっています。その3つの違いの根拠は、SCAフォーム使用時に評価する5つのカップに対して、WBrCで3人それぞれのジャッジが審査するカップは一つだけであるため、複数のカップがなければ評価出来ない3つの項目が除外されている為のものです。
この点について更に言及するとこのフォームで省かれている3項目のうち、少なくとも均一性に関してはジャッジ3人のカップを評価するヘッドジャッジの役割を反映しその評価フォームに取り組まれています。
プレゼンテーションに関して3人のジャッジが評価する点は、バリスタの風味説明がどれだけジャッジ自身の感覚評価と一致しているか、またカスタマーサービスについてです。カスタマーサービスは、バリスタがプレゼンテーションを通してどれだけカップの域を超えてコーヒーを飲む経験を更に豊かに出来るかが審査されます。
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個人的には大会前にここまで勉強すると少し緊張が解け、当日に向けての心構えの準備が出来ました。次回は当日のジャッジ経験について綴ります。
コーヒー抽出法大会ジャッジに挑戦!(パート1)
今回からはQグレーダーのお話を少し休んで数回にわたって、コーヒー抽出法大会に初めてジャッジとして参加させて頂いた時の経験について綴ります。どの様にしてジャッジとしての参加の招待に至ったか、話が少々曲折しますが紹介します。
Qグレーダーがもたらしてくれる機会
私が住んでいるのは人口約6百万人の中米のエルサルバドルなのですが、この国には私を含めてQグレーダーは18人しか居なく、希少な存在です。よってQグレーダー資格を取得すると自動的に、先輩のQグレーダーやカッパーの視線を引く事になります。
しかも私みたいに何処から現れたのか、アメリカへまで自費で渡って資格を取ってきた様なカッパーは特に珍しがられると思います。話に聞いたところではエルサルバドルの先輩Qグレーダーは皆エルサルバドル、或いは良くて隣国のグアテマラかホンジュラスで資格取得したのだから、言い方を変えれば変人的な存在かも知れませんが。
そんな背景の下、恐らく何処のコーヒー原産地にもあるのでしょうが、エルサルバドルにはASCAFEと称されるカッパー協会があり、ある日そこのカッピングセッションに招待されました。これもやはりQグレーダーになったあなたに、先輩カッパーをより幅広く知り、ASCAFE加盟を検討するために、とのオファーでした。エルサルバドルのコーヒー業界に携わっているより多くの方々を知り合いたいと願っていた私は、勿論有難く好意を引き受けました。
ASCAFEカッピング時の場面
なんとCOEトップ10をカッピング!
ASCAFEのカッピングセッションの開催場所は、Qグレーダーも数人勤務しているエルサルバドルコーヒー審議会のコーヒー研修目的に設置されたコーヒースクールでした。その日の日程は先ずは協会の諸事についての話し合いがあり、その中でQグレーダーを取得したばかりのカッパーとして私の紹介をして頂き、皆さんに温かい拍手をもって歓迎頂いたのはとてもうれしい思いでした。
カッピングのイントロ的な打ち合わせが終わり、その日カッピングするコーヒーの説明を聞くと、なんとその年のエルサルバドルのカップオブエクセレンス(COE)トップ10だと言う事を知り、多くの先輩カッパーとカッピングが出来る事だけでウキウキしていた私の心はより高く舞い上がりました。と言うのもCOEは後に入札で売るために、生産国ごとにその年の収穫の最高のコーヒーをカッピングで競い合う大会です。
COEに出品するコーヒーは、トップに入ると後に市場価格とは全く比べ物にならない位の高い値段で売れる為にどの農家もこれ以上無い程栽培と精製に入念な手入れをしており、最高級のコーヒーとなります。
COEトップ10の一つのコーヒーの詳細
聞いた話だと、その場に居たのは私を除いて皆誰もがASCAFEの会員であり、彼らですら多くがその年のトップ10のカッピングは無経験な方たちばかりでした。そこへ来て会員でもない私が招待されてエルサルバドルの最高のコーヒーをカッピングさせて頂けるのには、頭が上がらない程の有難み、またとても光栄に感じました。
カッピングと言うユートピアへの旅
そうして2台のカッピングテーブルのそれぞれに3カップセットで置かれた10のエルサルバドル最高級のコーヒーを前にして、私は嬉しさと共に緊張も覚えました。こんなに質の高いコーヒーを私がカッピングして消費してしまっても良いのか、と。
いや、だけどこれもカッピングの専門家であるQグレーダーとして自分には社会においてコーヒーの品質の認識、またその向上促進に貢献する重大な目的がある事を思い出しました。これを念頭に置くと、こう言った超高級豆のカッピングも必要不可欠な、いや中心的な活動の一環なのだと言う結論に至り、気を引き締めてカッピングに挑む心理的準備が出来ました。
10の高貴なコーヒーの香りと風味を 一つずつ鼻と口に含める度にその色気に圧倒され、時が止まる・・・。舞い込んでくる色とりどりの風味の魅力に酔わされる。その香ばしき、また美しき魅力にただただ絶句・・・。新たに知り合ったカッパーともその時、場所、機会を共にした幸せを満喫すべく、味わうコーヒーの感想を共有しあい、ユートピアに至ったかのような思いでいっぱいでした。
こうしてASCAFE会員との触れ合いは、コーヒーの質はもとより最初の打ち合わせからカッピングまで通じて同志カッパーの新メンバーを迎える親切さを感じ、感謝でいっぱいの日でした。
旧友そして「新」友
このASCAFE会議出席に関して最後に触れておきたいのは、人と人の繋がりの大切さです。と言うのもASCAFE会議とカッピングに招待して頂いたのは、彼自身Qグレーダーでもあるエルネスト・ベラスケスと言うコーヒー審議会の品質コントロール課長です。
彼は10年前に私が商社に勤めていた頃に様々なコーヒーの研修を受けた際に講師として多くを教えて下さった方でした。最近私がコーヒーとの関わりを深くするにつれて彼にお会いする機会が再び増えたのですが、実はサンフランシスコでのQグレーダー研修及び受験出発寸前にも訓練をお手伝い頂いたり、学習教材を貸して頂いたりととても親切にして頂きました。
エルネストとASCAFEカッピングにて
エルネストはいわゆる旧友ですが彼との訓練で知り合い、その後Qグレーダーになってからより知り合う機会が増えたのも、もう一人のコーヒー審議会のQグレーダーです。マヌエル・ビンデルと言う方ですが、彼は前述のコーヒースクール長であり、噂には名前を良く聞いていた方なので私もより知り合いたいと思っていたところにASCAFEでのカッピングでその機会が訪れ、私からはよりコーヒーに身を入れたい事などを話しました。
するとASCAFEとのカッピングの数日後にある案件を提案したいから話がしたいとテキストメッセージしてくれたので何の事かと彼にコンタクトすると、その週末に抽出法大会がありジャッジが必要なので引き受けてくれないか、という話でした。私からしたらカッピング経験を重ねるこれ以上ない機会なので、当然ながらそのまま喜んで引き受けたのです。
彼のその話で嬉しかったのは、ASCAFE会議で合った際にQグレーダー後の練習を重ねるためにカッピングの機会を増やしたいと言った私の思いを覚えていてくれ、ジャッジが必要だと確認した際に思い出してくれた事です。こうしてコーヒーの親友となっていく事を願う「新」友が誕生した訳です。
と、こんな感じで抽出法大会にジャッジとして参加出来ることが決まりました。次回からはこの大会についてご紹介します。
トライアンギュレーション訓練(パート4)
先ずはハイトーン、ロートーンの区分け
トライアンギュレーション訓練を始めた当初は甘さや酸味の区別、またそれらの要素間が乱れあった故の味覚への相互作用などに頭が混乱しての出発でした。いや、それどころか正直言うとカッピングを10年来行っていなかったので、レモンやら土やらシナモンやらと言った多くの香味の識別すら出来ない状態でした。とは言っても、10年前にどれだけそういう事が出来ていたかと聞かれると、それもあまり自信を持ってこんなに出来ていたんだ!とは言えませんが・・・。
それで、訓練を開始した頃は香りに関しては特にあまりはっきりと何の香りだ、と特定出来なかった為、これはハイトーン、或いはロートーンの香りだと言う風な特徴付けをするようにしていました。これはどういう事かと言うとハイトーンは軽い香り、言い方を変えれば花の様な弾む香りですが、フルーツでも柑橘類、桃、りんご、いちご等の明るい色のベリーに代表されます。それに対してロートーンはドシッとした重い香りですが、ダークチョコレート、糖蜜、ブルーベリー等のダークベリーに感じられるものです。
このハイトーンやロートーンと言う区分けでカップを区別出来る事もありますが、同じセットの3カップが全て同じトーンの時には十分ではありません。そこでこれを更に進化させたのが「香りの色付け」です。色でも軽い、明るい系統のものがあり、逆に重めで暗めのものもあります。このアイディアを活かすと例えば柑橘類は黄色やオレンジ、ダークチョコレートは黒と言った色付けに自然に行き着くのですが、これを利用してそれぞれのコーヒーの香りの区別をする訳です。
嗅覚の向上はより総合的なカッピングスキル向上
詳しくは次回以降の嗅覚訓練で取り上げますが、私は元々味覚の方が発達しており、嗅覚はあまり良いとは言えない方でした。それもあって前述のハイトーン、ロートーンの区分けから始めて、後に香りの色付けに移った所以です。逆に言えばカッピング訓練開始当初は大半の場合、より自信があった味覚のみを当てにしてトライアンギュレーションの違うカップを特定していました。
そう言う状況だったのですが訓練を重ねていくに連れ嗅覚が改善し、結果としてしばしばフラグランスとアロマの評価結果で正しい答えを導き出せる様になっていきました。
どれだけ嗅覚が良くなっていったかと言うと、 嗅覚と味覚の結果が違ったセットについて説明すると分かり易いと思います。この様に香り、味覚のそれぞれをベースにした答えが異なる場合、初めの頃は香りベースの答えが間違っている場合が大半で、味覚ベースの答えが合っている事の方が多かったです。しかし嗅覚が良くなるに連れ、当初はより自信があった味覚ベースの答えを選んだら誤答で、嗅覚ベースの答えが合っていたと言う事が多くなっていく程の改善でした。
この様に嗅覚が鋭くなっていった事は総合的なカッピング力向上に繋がっていきました。と言うのもカッピングする際に味覚だけではなく、嗅覚に頼ることも出来るようになったからです。これは言い換えれば、評価する際の道具が増えた様なもののです。
嗅覚と味覚の評価結果一致へ
上記の様に、トライアンギュレーションで嗅覚と味覚の評価結果が一致しない事は特にトレーニング初期にはしばしばあります。逆に言えば順調にカッピング能力が上がっている事の一つの指標は、これらが一致する事です。さらに言えば、この双方の結果が一致すると言う事は、正しく異なるカップを選んでいる事が多いものです。
実際私もトレーニングを重ねるに連れ、評価結果が一致するケースが多くなり、それイコール正解ゲットの頻度も増えていきました。評価結果一致で正解を当てた時の快感度は並ではないものです。ゴルフに例えればホールインワン、野球だったらホームランと言ったところでしょうか。
愉快痛快、最高のスッキリ気分と言っても表現し切れない感触です。しかもそれを一回のトライアンギュレーション訓練で何セットか成し遂げた時は至福の想い、生きていて本当に良かった感満々です。
四記事にもわたってお届けした、当初より長くなったトライアンギュレーション訓練の紹介連載ですが、取り敢えずは今回で最終回です。次回のQグレーダー訓練紹介はルネデュカフェと言う道具を使った嗅覚訓練について綴ります。
トライアンギュレーション訓練(パート3)
トライアンギュレーション訓練第三回目の今回はトレーニングの書式の風味以降部分使い方の説明を紹介します。
フォームの利用例~風味~
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カップ1
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カップ2
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カップ3
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コメント
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フラグランス
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クルミ、みかん
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クルミ、みかん
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Xー黒砂糖
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アロマ(及びクラスト崩壊時)
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クルミ、チョコレート
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チョコレート
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X?ーチョコレート、シナモン
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カップ(風味)
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チョコレート気味?、レモングラス
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X?ーチョコレート、レモン
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やや黒砂糖、レモングラス
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カップ2の酸味がやや強い?
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異なるカップ(Xで指定)
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X
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他より酸味が強いカップ
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X?
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他よりボディが強いカップ
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X?
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X
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他より甘みが強いカップ
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?
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?
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?
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特に違いが感じられなかった。
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コメント
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フラグランスでほぼ確実だった為の選択。
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上記例の場合、カップもアロマに似て感覚属性では相違カップの特定が難しいと言う結果がフォームに反映されています。その行のコメントによると、レモンが感じられるカップ2の酸味が、レモングラスと表現された他の2カップより強い為にカップ2が違うものだと特定された根拠が明らかになります。
フォームの利用例~総評と感覚属性~
以上、フラグランス、アロマ、カップの評価を経て、最終的にどれが違うカップなのかを指定しなければいけませんが、それぞれの評価をよく吟味して決定します。上の例の場合、フラグランスベースの答えは確実性の高いものであり、アロマとカップベースの回答はそうではないため、フラグランスの評価結果を中心に判断を下すのが賢明だと思われる為に総評結果でカップ3が違うものとなっています。
この例から分かる通り3つの時点での評価が異なることがしばしばあるため、あまり自信がない評価には?マークを付けたりして、それぞれの評価の確実性を記録する事は重要です。
異なるカップ以下の三行(他より酸味、ボディ、甘みが強いカップ)については文字通りどのカップが当てはまるのか、カッピング結果から探し出して指定します。この評価は当然ながら異なるカップの検出に役立ち、酸味、ボディ、甘みと言う3つの大黒柱的な感覚属性の特徴付け能力改善を目的としたトレーニングとして、カッピング技量アップにも大きく寄与します。
上の例ではカップで感じた、あまり確実性が高くないカップ2の高めの酸味、またカップ1より高めのボディに感じられたカップ3と、より低い確実性だが同様にカップ1より高く感じられたカップ2のボディについても記録されています。
甘みについてはカップ間の違いがあまり感じられなかったので、最終評価には特に寄与しない結果となっています。最後にこれらの感覚属性の結果は無論ながら、フラグランス、アロマ、カップの結果と一致しなければいけません。
例えばカップ(風味)行で、確実性は低いにしろカップ2が一番高い酸味だとなっており、表のより下部に他より酸味が強いカップとしてカップ2が確認されているので表の上下の部分で一致した結果がされており、正しい記録例となっています。
最終回の次回は私のカッピング能力向上経験逸話について語ります。
トライアンギュレーション訓練(パート2)
前回に続きトライアンギュレーション訓練について更に説明しますが、ベンがトレーニング用に作成した書式とその使用例の香りの部分を紹介します。
トレーニングの書式
どの様にしてカッピングして確認した感覚属性や香味の記録を整理していくか、と言う問いに応えるのがベン作成の以下のフォームで、1セット毎に以下の様な表を使います。後に説明します記述例を加えて紹介します。
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カップ1
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カップ2
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カップ3
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コメント
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フラグランス
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クルミ、みかん
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クルミ、みかん
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Xー黒砂糖
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アロマ(及びクラスト崩壊時)
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クルミ、チョコレート
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チョコレート
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X?ーチョコレート、シナモン
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カップ(風味)
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チョコレート気味?、レモングラス
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X?ーチョコレート、レモン
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やや黒砂糖、レモングラス
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カップ2の酸味がやや強い?
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異なるカップ(Xで指定)
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X
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他より酸味が強いカップ
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X?
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他よりボディが強いカップ
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X?
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X
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他より甘みが強いカップ
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?
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?
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特に違いが感じられなかった。
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コメント
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フラグランスでほぼ確実だった為の選択。
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この表の一列目には先ず評価する4つの時点(フラグランス、クラスト崩壊時を含むアロマ、カップ)が記され、二列目から四列目まではカップ1からカップ3となっていますが、そこに記録するそれぞれのカップに関する感覚属性をもとに他の2カップと違うと思われるものにXを記入します。
それらをまとめた結果が「異なるカップ」行で、4つの時点での評価を考慮し最終的にどのカップが違うのかを決定します。このまとめの行が必要な理由は以下に説明する例で判明する通り、それぞれの時点で違う評価結果(特定される相違カップが一致しない)が出ることがよくあり、最終的にどのカップにするかと言う判断が必要となるためです。 これはかなりの経験を積むまでは特に起こる事です。
上記の行以下に酸味、ボディ、甘みのそれぞれが強いカップを指定出来るようになっており、これもそれぞれの時点での評価の結果どれが当てはまるかを特定しますが、これも異なるカップを特定するのに使える情報となります。コメント欄には気がついた点や判断根拠の補足説明等を記入します。
フォームの利用例~香り~
実際のフォームの使い方を、記入された例を使って説明しますが、先ずは香り評価であるフラグランスとアロマの行から始めます。
カッピングテーブルに何セットかの3つのコーヒーカップが置かれカッピングが始まり、セット1のカップ1、カップ2、カップ3と、フラグランスを嗅ぎます。そこでカップ1とカップ2には同じ香りを感じ、それがクルミとみかんと確認し、カップ3には黒砂糖を感じたとします。フラグランスの行にはそれらの香りを記入し、カップ3だけに違う香りを感じたので、フラグランスによる評価においてはそのカップが違い、カップ3には香りで相違あるカップとしてXを記入します。
上記フラグランス行の記入は、香りの違いがはっきりしている為に違うカップの指定、記入も安易ですが、トライアンギュレーションではこの様にそれぞれのカップの香味をはっきりと特定できない事が多いものです。この1つの例が上のフォームのアロマ行ですが、カップ1にクルミ、カップ3にはシナモンが感じられたにしろ、全てのカップにチョコレートが感じられたことにより、どのカップが違うかは明らかになりません。
こういう場合は、後に相違カップの特定をする際の便宜を図って敢えて何れかのカップを指定するのがベストです。上のアロマの例の場合、シナモン臭を含んでいるカップ3が違うフラグランスであると言う結果も踏まえて、もしかしたらそれが違うカップなのではないか?、と言う論理をもとにした結論となっています。
フォームの利用例説明は次回風味と総計について続けます。
トライアンギュレーション訓練(パート1)
訓練の内容が決まり、実行に移る時が来ました。トレーニングの場所は多くの豆、また必要となる機材が揃ったベンの事務所で、週に少なくとも二日、出来れば三日か四日会って行う事となりました。実際ほぼ予定通りの頻度で実行出来たのですが、会うと約2時間の間、特にトライアンギュレーションとルネデュカフェのコンボで訓練することが多かったです。時間帯としては平日の仕事帰りの午後5時過ぎから、または週末は土曜日の午前中のトレーニングをしました。訓練後は落ち着いて1、2時間コーヒーを飲みながらその日のトレーニングを振り返ったり、研修及び試験当日がどうなるかと言った話をしながら訓練の日々が過ぎていきました。
簡単なようで(?)難しいトライアンギュレーション
前回簡略的に紹介しました通り、トライアンギュレーションとは3カップのセット中で1カップだけ他の2カップとは違うものがあり、その違うものをカッピングして特定する訓練です。これは簡単な様でかなり難しい練習です。
と言うのも例えば セットにあるのがグアテマラとスマトラの全く違う産地のコーヒーだったり、ウオッシュドとナチュラルの異なった精製方法だったらかなり性質が違うので結構簡単に味と香りの違いが区別出来ます。だけど全く同じ農園の同じ精製方法のコーヒーで違うのはバラエティーだけだったり、はたまた同一産地の同一バラエティーだが、違うのは農園だけだったりすると難易度は何倍にもなります。
実際我々が練習で使ったコーヒーの多くはベンの農園のものが殆どで、時には農園で良くて数百メートルしか離れていない木で育った同一バラエティー、同一精製方法のコーヒーがセットになっている事もあり、味覚と嗅覚のみの識別はこの上ない困難を伴うものでした。
トライアンギュレーションでカッピング能力向上!
この様にかなり高レベルのカッピング能力が必要とされるトライアンギュレーションですが、その為にこの訓練を行う事でカッピング能力の全体的な向上が見込まれます。この訓練では香りと味だけを頼りに3カップの中からどれが違うのかを特定しなければいけません。なので、具体的にはどの様にこれを成し遂げるかは後に説明しますが、香味感覚をこれ以上無い程ビンビン覚ました上に100%超の集中度で挑まなければとてもじゃないけど出来ない離れ業です。
こうして必然的に全体的なカッピング能力の向上を促進するトライアンギュレーションのお陰で、前回紹介のSCAカッピングフォームの使用及び違った焙煎度合いのコーヒー、水溶液、そして有機酸コーヒーのカッピングと言った、意図的に重きを置かなかった他のカッピング関連訓練の技術も上がります。
ベンの言葉を借りて言えば、トライアンギュレーション訓練をもって意図するところは酸味、甘味、ボディーなどのレベルの認識を脳に強制する事によって、味感覚思考回路をフォーマットする事です。この事からもカッピング能力向上におけるトライアンギュレーション訓練の中心的位置づけが明白になると思います。
トライアンギュレーションのステップ・バイ・ステップ
- 豆を挽きコーヒー粉となった状態(香り-フラグランス)。
- お湯を注ぎ、コーヒー粉が湿った状態( 香り-アロマ)。
- カップの表面に浮いたコーヒー粉の層(クラスト)を破る時(香り)。
- 液体コーヒーを口中に入れた時(風味)。
それぞれの段階に香り、風味と記述しましたが、これはその時々で何れを評価するかを示したものです。また、乾いた状態の挽き豆の香りをフラグランスと言い、湿った状態の香りをアロマと言う事もご理解頂きたいと思い、書き加えました。
- 香りや味の感覚属性の度合(風味、余韻、酸味、コク、バランスなどの強弱や質)
- 香味の識別(何の様な香りや味がするか。例:レモン、いちご、チョコレート、ブルーベリー、土、シナモン、ラズベリー、お茶、ジャスミン、煙などなど)