嗅覚訓練(4)
今回からは嗅覚訓練の詳細を書きますが、2段階のステップから成るこの訓練の基本的な進め方から始めます。また、訓練の目的はルネデュカフェの小瓶の香りの嗅ぎ分けなので、その手法についても紹介します。
ルネデュカフェ訓練の基本的な進め方
嗅覚訓練の基本的な進め方はQグレーダー試験におけるルネデュカフェの使用方法で決定されます。で、ルネデュカフェがどの様にテストされるかと言うと、小瓶の中身がわからない環境でその液体を嗅いで何の香りなのかを言い当てなければいけません。いわゆる目隠しテストなのですが、中身が分からないようにするには透明な小瓶をテープで包み、赤ライトでほのかに照らされた暗室で試験が行われます。
よって、基本的に訓練の目的は目隠しテストして正確に香りを特定出来るようになる事ですが、これは2段階のプロセスを経て実現していきます。先ず第1段階目は感じる匂いが何の香りを表すかを確認して覚え、その後に2段階目で香りの記憶が出来たかを目隠しテストします。
この2段階目の目隠しテストについてはより詳細に次回の記事で説明しますが、今回のこれ以降は第1段階目でどの様に香りを覚えていくかについて書きます。
プルースト現象を利用した香りの認識及び記憶方法
嗅覚訓練の基本の第1段階目ですが、これは簡単に言えば、例えば土の小瓶を確認して香りを嗅ぎこれは土の香りだ、と確認する事を意味しています。要は一つ一つ小瓶のラベルを確認した上で、蓋を外し香りの確認をするという作業を繰り返して、夫々の小瓶の名前と香りのペアを記憶していきます。
ここでこの記憶の仕方について更に説明をしますが、香りは他の感覚より密接にその人の過去の経験から得た記憶に繋がっている事が科学的に立証されています。これはどういう事かと言いますと、例えば子供の頃何時も秋に田舎のおばあちゃんの家へ行ったらホクホクのとても香ばしいクルミを食べさせてもらっていた様な経験があったら、クルミの匂いを嗅ぐ度におばあちゃんの家のそのシーンを思い出す、と言ったことです。(注:因みにクルミはルネデュカフェでは30番のウォールナッツとなります。)
この様に香りが何らかの記憶を思い出させる事をプルースト現象と言いますが、香りから直接それを代表するものが何なのかを認識することが困難な場合にこの現象を活用することが出来ます。言い換えれば香りを直接代表する物の名前に結びつけて覚えるのではなく、その香りが彷彿させる記憶を経由して間接的にその関係を築くのです。上記の例の場合、もしクルミの香りが秋口のおばあちゃんの家の連想はもたらすがクルミがその記憶から欠落しているのなら、そのシーンが浮かび上がったらそれはクルミだと記憶するのです。
感覚属性を使った認識方法
と、一応上記の手法を紹介しましたが香りを嗅いでも何も連想出来ない事もあり、私の場合結構そうなのですが記憶力があまり良くないからか、この手法は正直言うとあまり頼りに出来ませんでした。これは訓練が浅い初期に特に困る事なのですが、ルネデュカフェの36の小瓶の内で細かい違いしかない、とても似通っている香りのものが幾つかあると判別が難しい事がしばしばありますが、これは以前の手法を使える場合でも起こり得る問題です。こういう場面では夫々の香りのニュアンスを感じ取り、判別する必要があります。
そのニュアンスには決して網羅したリストではありませんが、以下の様なものが挙げられます。これらの感覚属性は夫々感じられる強度と共に認識できると香りの特定が安易になっていきますが、当然ながらこれは訓練を重ねていく毎に徐々に感度の鋭敏化が期待できるものです。
- 種類:例えば塩や酸っぱさが感じられるか。
- 重さ:よりライトトーン、或いはヘビートーンの香りか。
- 滑らかさ:滑らかな、或いは粗い香りか。
- 透明度:クリアか、或いは濁った香りか。
これらがどの様にして香りの特定を可能にするかは、幾つか似通っている香りの違いを私が自分なりにどの様に嗅ぎ分けているかを説明すると明快になると思います。例として特にお互いの類似度が高いルネデュカフェのナッツ類を比べ判別する際に役立つ、夫々の特徴的感覚属性とその強度を紹介します。
- 27.ローストアーモンド:蜜のような甘さがあり、滑らかで透明度が高い香り。
- 28.ローストピーナッツ:少々粗いがアルコールのように揮発性の高い甘じょっぱい香り。
- 29.ローストヘーゼルナッツ:チョコレートに似て粗く甘いが、軽めの香り。
- 30.ウォールナッツ(クルミ):やや粗く、多少の甘みと共に塩が感じられる香り。
如何だったでしょうか。似たような香りの嗅ぎ分けは大変ではありますが、色とりどりの風味豊かな世界であり、我々のコーヒーを飲むと言う経験をとてもジョイフルなものにする事に大いに貢献をしています。次回も嗅覚訓練について紹介し続けます。