コーヒー産地直送!~Qグレーダーの中米便り~

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嗅覚訓練(7)

いよいよ嗅覚訓練の最終回となりました。この訓練過程を経てどの様に私の嗅覚力が向上していったかを語りますが、その為に応用した戦略、また心理面の準備の大切さについても触れます。

徐々に難度の高い試練をクリアしていく戦略

以前少し触れましたが、訓練開始初期は今思えばかなり違った香りでも混同しており、目隠し総合テストの正解率はかなり低いものでした。どれだけ識別が出来ていなかったかというと、例えば1番の土と35番の薬を間違えるほどでした。ここまで大きな間違いをしていた理由の一つには、ルネデュカフェの香りにあまり慣れていなかった事が重かったと思います。よって先ずは36の香りに慣れるところから始めなければいけなく、キットを借りては個人訓練をよくやったものです。

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雨上がりの清々しい土の香り

それらの香りに慣れていく、イコール香りを覚える事と並行して重要なのは香りリストの記憶です。リストの名前を覚えていくと香りを感じた時の選択肢がリストにある名前だけに絞られ、それ以外のものを気にしなくて良いからです。と言うのもブドウはルネデュカフェにはないので、リストの36の香りの名前を覚えればブドウかな?と言う事が起こりえませんから。

この様にして訓練を発展させ、香りのニュアンス的な違いを感じられる様になるに連れて大きな間違いが無くなってきたら、次のステップとして違いがより細かい香りの識別を試みます。基本的には同じ種類のものの香りですが、例えば野菜類、花、フルーツ、と言ったグループの中にある香りどうしの識別をトレーニングします。これは私の経験ではナッツが一番難しく、実際にナッツ類の識別は意図的にトレーニング期間の最後に後回ししました。

とは言っても識別が難しいのはそう言うブループ間だけではなく、違うグループにある香りでも至難の業のものもあります。ご参考までに以下に特に私が間違えることが多かったペアリングとその差別方法を紹介します。これらの多くは前回ご紹介した、試験本番でも使われる分類別テストで同一グループに無いと言う意味では識別が重要ではないとも言えますが、嗅覚能力向上のためには差別のトレーニングをお勧めします。

 

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高難易度の香りペアリング表

もう一つだけ嗅覚訓練で改善するにあたっての留意点ですが、人それぞれに苦手な香りがあると言う事です。私の場合は例えば35番の薬ですが、その特徴を感じられない事もしばしばありました。それで私の場合は他のものはほぼ皆特徴を感じていたので、何も感知できない場合は消去法でそれは薬、とよく特定していました。但し33番のキセルも私は苦手だったのでそれと混同する事もありましたが。

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嗅覚力パワーアップ!

この様な訓練をコツコツとほぼ毎日の様に行っていくにつれ嗅覚力は確実にアップします。私の個人的な経験ですと恥ずかしながら訓練開始一番で行なった総合テストでは36の香りのうち、5つしか当てられませんでした。この結果は、たったの50日間の訓練だけではやはりこのレベルから合格点まで持っていくのは無理だろうな、と言う私の当初の思いを裏打ちするものでした。

そこから訓練を重ねるにつれ改善はしていったのですが、初期の発展は遅いもので最初の2週間ぐらいはやっと8つ正解する程にしかなりませんでした。とこがそれが3週目には突然正解が10、さらに4周目には18が正解と伸びていきました。その後5週目には22、しまいには訓練最終の週となる6週目に目標の28を当てられる様になりました。この目標を達成して試験でもその結果が出せれば嗅覚テストの最低ラインで合格出来るので、ギリギリに期間内に達成できたのはとてもうれしいものでした。

心理面の配慮も大切に

ここで一つ興味深いのは、実は28正解となるにも段階的に達成できた事です。と言うのも初めは訓練パートナーに行なってもらったテストで28正解を得たのではなく、妻に行ってもらったテストで先ずその数値を達成してから、その後に訓練パートナーとのテストでもできる様になった訳です。

これは取るに足りないことの様に思われるかも知れませんが、そうではなくテストをする際の心理面のインパクトを反映する良い例だと思います。どういう事か言いますと、妻にテストをしてもらった時には私が比較的リラックスしていたためにより良い結果を早期に実現でき、訓練パートナーとのテストはより緊張していたためにその様な結果を出すのが遅れたのだと思います。

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Qグレーダー訓練は心理面でも必要

この例にあるようにQグレーダー訓練においては心理面の配慮が必須で、これは当然ながら試験当日も適切な心理的準備が必要です。前述のようにQグレーダー試験はコーヒーの世界で一番シビアな試験であり、その道何年のプロでも多くが一度で合格しない試験です。

それだけの試練なので、どれだけ訓練で技術的に最適な準備が出来ても心理面が適宜ケア出来ていないと失敗に終わることが必至です。この心理面のケアについては後により詳しく説明する為、この場では重要性を提起するだけとします。

 

以上で長くなりました嗅覚訓練の紹介を終わりとします。次回からは少しQグレーダーのお話をお休みし、世界数か国で毎年開催されるコーヒーの大会、カップ・オブ・エクセレンスについての連載を始めます。